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増える移籍、多様化する契約形態...日本のマラソン&駅伝人気を支える実業団の現在地 「プロ化=すごい」でいいのか?

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

激戦の東日本地区にあって、2大会ぶりのニューイヤー駅伝出場を目指しているコモディイイダ駅伝部。選手たちは皆、仕事をしながら練習に取り組んでいる photo by Comodi-Iida激戦の東日本地区にあって、2大会ぶりのニューイヤー駅伝出場を目指しているコモディイイダ駅伝部。選手たちは皆、仕事をしながら練習に取り組んでいる photo by Comodi-Iida

【チームの主力選手の移籍が増えたワケ】

 毎年3月末には実業団選手の退部、移籍、引退が発表されるが、今年は例年以上に多かった。監督やコーチについても同様だ。

 それ以前にも、今年に入ってからは、青山学院大時代に箱根駅伝で大活躍した森田歩希、下田裕太、10000mの元日本記録保持者である村山紘太、「ミスター駅伝」岡本直己など、印象的な走りを見せたビッグネームの引退発表が相次ぎ、時代の流れを感じさせた。

 そんな日本のマラソン&駅伝人気を支える実業団の現状について、埼玉県に拠点に置くコモディイイダ駅伝部の会沢陽之介監督に聞くと、やはり例年との違いを感じたという。

「昨年から今年にかけて、人の流れがどんどん作られ、しかも早くなっている感じがします。引退を決めた選手はともかく、他社への移籍が多かったのは、より陸上にフォーカスして、自分がやりたいことができる環境(企業)が増え、その道を選択した選手が増えたからだと思います」

 確かに、これからという選手やチームの主力になっている選手が、他チームに移籍しているケースが見受けられた。例えば、10000ⅿで日本歴代10位の記録を持つ小林歩は、NTT西日本からSUBARUに移籍した。彼には駅伝で勝ちたいという明確な目標があり、自分が求めているところに移籍できるだけの競技力もあるが、それでもこの移籍はかなり驚きだった。選手の意識が大きく変わってきているのだろう。

 そうした状況について、会沢監督はこう話す。

「選手の移籍は、それぞれの目標や目的があるし、個々の生き方ですので、私のような社員監督という立場からすると残念ではありますが、仕方ないと思います。ただ、監督やコーチが選手を引き連れて出ていくのは、どうなのか。(実業団の)監督や選手は、その企業の広報的な役割を果たしています。競技を通じて企業の魅力を発信しているわけです。それなのに、監督やコーチが選手を連れて出ていくのは、広報活動としてはマイナスになってしまいます」

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著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。

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