箱根駅伝 渡辺康幸が語る青学大「初優勝から11回中8回総合優勝」の強さと史上最高レベルの2区
原晋監督が築いた青学メソッドは強固に受け継がれている photo by Kishimoto Tsutomu
前編:渡辺康幸が振り返る箱根駅伝
2016年から箱根駅伝の第1中継車のテレビ解説を務める渡辺康幸氏(住友電工陸上競技部監督)の目には、今年の第101回大会はどのように映ったのだろうか。
前編では青山学院大の強さの礎、史上最高レベルとなった2区を中心に、個人的に印象に残ったシーンや選手を挙げてもらった。
*本文は渡辺氏の一人称構成
【青学大の強さの礎となっている原晋監督の組織運営】
今年の箱根駅伝は青学大が来るんじゃないかと予想している方も多かったように、比較的、予想どおりの結果でした。青学大はすべての区間で完璧というわけではなかったですが、エース区間の2区、山上り(5区)と下り(6区)をしっかり抑えたように、周到に準備してきたと思います。
そもそもこの11年間で8回目の総合優勝。逆の見方をすれば3回しか負けていないわけですが、その3回も惨敗ではなく、ほとんどが往路で出遅れて復路で巻き返す内容でした。それだけ長い期間、非常に高いレベルの戦い方を維持しているのは、箱根駅伝で勝つための青学大のメソッドが確立されている証拠だと思います。
2区や山の2区間の強さが目立つのは、大会への準備以前のスカウト段階での選手適性の見極めの鋭さ、入学後の練習を通してさらに各区間の適性を見極める部分も含めて成り立っていると推測します。
何より圧倒的に選手層が厚い。ある程度、スカウト段階で適性を見ていても実際に入ってから向いてない場合もあるわけで、そういう場合は平地で生きるように育成するなどの方法論がある。それを2〜3年のスパンで繰り返すことで、強い世代が卒業しても、チームとしての強さを維持できると思います。
しかも青学大の場合は、しっかり総合タイムを伸ばして勝っているので、偶然の勝利というものがない。駅伝ファンからすれば、青学大ばかり勝っておもしろくない、という方もいますが、われわれには見えない裏の部分で、われわれが思っている以上の厳しさ、組織運営がなされていることを忘れてはなりません。
原晋監督のチームづくりにおいては、組織をコントロールする厳しさ、選手が守るべき規律やルールの徹底が強さの礎にあります。華々しくテレビに出演しているのは、原監督が気分転換をしている姿であって、チームづくりでは隙のないように徹底して鍛えています。選手たちが自分の自由時間がないほど縛りつけているわけではなく、練習に対する取り組む姿勢や日常生活での早寝早起き、寮の門限などは厳しいですし、学年ごとのミーティングを自主的に行なう文化など、もともと自主性のある選手が多く入学してくるので、新入生でも先輩を見て、青学大ってこういう組織なんだと日頃から学び、学年が上がることに成長して、チーム文化が醸成されてきたのです。
それは原監督が奥様と一緒に作り上げてきたものであると思います。今も選手と同じ屋根の下で生活していることも、そうした組織力を維持できている要因と、私は見ています。
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著者プロフィール
牧野 豊 (まきの・ゆたか)
1970年、東京・神田生まれ。上智大卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。複数の専門誌に携わった後、「Jr.バスケットボール・マガジン」「スイミング・マガジン」「陸上競技マガジン」等5誌の編集長を歴任。NFLスーパーボウル、NBAファイナル、アジア大会、各競技の世界選手権のほか、2012年ロンドン、21年東京と夏季五輪2大会を現地取材。22年9月に退社し、現在はフリーランスのスポーツ専門編集者&ライターとして活動中。