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高校サッカー選手権出場のJ1クラブ内定選手はわずか3人 白熱した決勝の陰で何が起きているのか

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

連載第23回
杉山茂樹の「看過できない」

 チケットは完売。国立競技場に5万8347人の観衆を集めて行なわれた全国高等学校サッカー選手権大会決勝、前橋育英対流通経済大柏は、晴れの舞台に相応しい白熱の好試合となった。その延長、PK戦を観ながら、日本サッカーの将来は明るいと楽観的になった人も少なくないはずだ。サッカー少年たちはさぞ胸を熱くしたに違いない。彼らの国立競技場への憧れをあと押しするような一戦でもあった。

 想起するのは高校野球と甲子園球場の関係だ。生徒にとっての憧れの舞台という点で共通する。しかし、サッカー界には高校サッカー選手権を目指していない高校生選手も多くいる。Jクラブの育成組織に所属している選手たちだ。U-17日本代表に招集された選手の所属チームに目をやれば、高校のサッカー部に所属する選手の割合が1、2割であることに気づかされる。メンバーの大半、言い換えれば優秀な選手の大半は、Jクラブの育成組織に所属する選手で占められている。

国立競技場に大観衆が詰めかけた高校サッカー選手権決勝 photo by Kishiku Torao国立競技場に大観衆が詰めかけた高校サッカー選手権決勝 photo by Kishiku Torao 高校サッカー選手権に出場したいがためにJクラブの育成組織をやめ、高校の部活チームに転向する選手も少なくないが、たとえば全国高等学校サッカー選手権大会と全国高等学校野球選手権大会とでは、コンセプトは基本的に大きく異なる。

 野球の場合は夏の甲子園のあとにドラフトがある。甲子園出場組が必ずしもドラフトされるわけではないが、その間、エンタメ性を継続することができる。これに対して高校サッカーは、すでに選手の進路が決まったなかで行なわれる。選手権の実況アナは「○○選手は○○に内定しています」と言葉を添える。選手の将来について勝手に想像を膨らますことができる夏の甲子園が、羨ましく見える瞬間だ。

 今回の高校サッカー選手権に出場した選手のなかに、J1クラブに内定している選手は3人いた。流通経済大柏のFW松本果成(湘南ベルマーレ)、静岡学園のSB野田裕人(川崎フロンターレ)、大津のMF嶋本悠大(清水エスパルス)である。J2のクラブへの加入が内定している選手と合わせても6人止まりだ。一方で目が行くのは大学に進学する選手の数だ。そのなかにはJ2、J3なら早い段階でデビューできそうな選手も含まれている。好素材が大学に流れる傾向は増すばかりだ。

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著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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