中谷潤人のLAキャンプ密着ルポ コーチの「奇特な練習」を忠実にこなす姿に見た、選手にとって最も大事なもの
【LAキャンプを終えて「満足な状態」】
1ラウンドを3分ではなく、10分に設定して4回のスパーリング。それがWBCバンタム級チャンピオンに課せられた最終日のメニューだった。激しく打ち合うわけではなく、中谷潤人はディフェンス主体で合計40分間、粛々と動いた。
LAキャンプを行なった中谷(左)と、コーチのルディ・エルナンデス(右) パートナーに抜擢された19歳のフェザー級選手は、クリンチでしのぎながら、どうにか任務を遂行した。戸惑いを隠せない表情で、何度もコーナーに目をやる。ふたりのセコンドも、不安気な様子で自分の選手を見守った。
40分のスパーリングを終えると、中谷はシャドーボクシングに移った。疲れ果てた19歳は、もうこれ以上動けないといった顔で、汗に濡れたトレーニングウエアを脱いだ。
両者に目をやりながら、ルディ・エルナンデスが言った。15歳で単身渡米した中谷を、3階級制覇の世界王者に育てたトレーナーである。
「コンディショニングさ。それプラス、メンタルのトレーニングでもある。ジュントは明日、日本に向かうロングフライトだから、体のシャープさを保つのに丁度いい。彼だからこなせるんだがね」
"リトル東京"の一角に建つLAボクシングジム。2月24日のタイトルマッチに向け、現地時間1月8日に始まった今回のキャンプは、2月6日で一次が終了。これから日本で最終調整に入る。
中谷はこう話した。
「今回も自分を追い込むことができました。ひと段落という感じですね。体のキレを感じます。昨日くらいから、疲労も抜けてきました」
1ラウンド10分という、奇特な練習について質した。
「15歳の頃から1ラウンド5分はやっていましたが、10分にセットされたのは初めてです。ただ、そこまで打ち合ってはいないので、長いとも感じなかったですね。疲れたなかでどう動くか、精神面の持っていき方という要素もあったのかな。
今週の頭は疲労が溜まり、スパーリング中に打たれるシーンがありました。なぜパンチをもらったのかを自問自答しながら、トレーニングを積みました。2日前くらいから調子がよくなったので、そこも自分自身や体と対話しています。満足な状態で帰国できますよ」
WBCバンタム級チャンピオンの言葉からは、トレーナーへの絶対的な信頼が伝わってくる。日頃から中谷は、「昔からルディの指導に疑問を感じたことはなく、ただこなすだけです」と語る。15歳にして、プロの世界でトップに立つことを夢見てボクシングの本場に乗り込んだ中谷は、ルディの実家にホームステイした。以来、エルナンデス家全員で世界チャンピオンを支えている。中谷と彼らには確かな絆が存在する。
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著者プロフィール
林壮一 (はやし・そういち)
1969年生まれ。ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するもケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。ネバダ州立大学リノ校、東京大学大学院情報学環教育部にてジャーナリズムを学ぶ。アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(以上、光文社電子書籍)、『神様のリング』『進め! サムライブルー 世の中への扉』『ほめて伸ばすコーチング』(以上、講談社)などがある。