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中谷潤人のLAキャンプ密着ルポ コーチの「奇特な練習」を忠実にこなす姿に見た、選手にとって最も大事なもの (4ページ目)

  • 林壮一●取材・文・撮影 text & photo by Soichi Hayashi Sr.

【中谷は「自分の時代を築ける男」】

 一方のルディも、「自身の最高傑作だ」とWBCバンタム級王者を称える。

「15歳で私の下に来た時、『たまにはオフを作ろう』と思って遊園地に誘ったんだ。同じ年代の若者たちも一緒にね。他の子たちは目を輝かせていたけれど、ジュントだけは『ジムに行きたい』って言ったんだよ。あのひと言は忘れられない。『この子はモノになる』と思ったね。私が提案しておきながら、断られてうれしく感じたものさ。

 ひとつひとつ、武器を身につけたから今がある。とにかく、ボクシングに捧げる姿勢が他の選手とは比較にならない。可能な限り彼を伸ばすことが、私の役目さ」

 現役時代、WBCウエルター級11位が最高位だったルディは27歳で引退後、弟のジェナロを指導するようになった。

「経験を積み、3年後に『コーチになれた』と感じた。弟も私の言うことを理解し、世界タイトルを手にしたしね。私はコーチとトレーナーは別物だと考えている。バンテージを用意してマウスピースを洗ってうがいをさせるレベルと、ファイターをしっかりと成長させる違いだ。確固たる哲学を持っているのがコーチだ。

 私が携わった中で最も優秀な選手は間違いなくジュントだ。弟を超えている。まだまだ伸びるよ。自分の時代を築ける男だ」

 2025年1月7日から2月7日までLAに滞在した中谷は、1ラウンド10分のメニューも、『ノーガードで相手を誘ってみろ』という助言も、『ロープを背負った状態から戦え』という指示も忠実にこなした。すべてが自分の糧となることを体験しているからだ。

 2月24日、中谷は彼らしいパフォーマンスでWBCバンタム級タイトルを防衛するだろう。ルディも彼も、勝利の先に井上尚弥戦が待ち受けていることを把握している。

 帰国前日、中谷はかつてホームステイしたルディの実家で言った。

「まずは次の試合で圧勝したいです。自分の価値を上げ、井上尚弥選手ともやりたいですね。正式に試合が決まった時が、ベストタイミングなのでしょう。もちろん勝ちにいきますよ。これからも全力でやっていくだけです」

 LAの日差しが27歳のチャンピオンの体に降り注いでいた。中谷潤人は、まさに昇りゆく太陽だ。

著者プロフィール

  • 林壮一

    林壮一 (はやし・そういち)

    1969年生まれ。ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するもケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。ネバダ州立大学リノ校、東京大学大学院情報学環教育部にてジャーナリズムを学ぶ。アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(以上、光文社電子書籍)、『神様のリング』『進め! サムライブルー 世の中への扉』『ほめて伸ばすコーチング』(以上、講談社)などがある。

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