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大橋悠依が現役引退後に「スポーツ栄養学」を学び始めた理由:トップアスリートのセカンドキャリア

  • 牧野 豊●取材・文 text by Makino Yutaka
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

現在は大学院生としても忙しい日々を送る大橋悠依さん photo by Nakamura Hiroyuki現在は大学院生としても忙しい日々を送る大橋悠依さん photo by Nakamura Hiroyukiこの記事に関連する写真を見る

前編:大橋悠依(東京五輪競泳2冠)インタビュー

2021年の東京五輪で競泳200m、400m個人メドレーを制し、女子アスリートとして夏季オリンピック日本史上初となる同一大会2冠を達成した大橋悠依さん。パリ五輪出場を果たした2024年シーズンを最後に第一線を退き、現在は現役時代の所属先であるイトマンスイミングスクールの経営母体・株式会社ナガセに勤務しながら、2025年4月からは東洋大学大学院(健康スポーツ科学研究科・栄養科学専攻)でスポーツ栄養学を学んでいる。

トップアスリートの現役引退後の人生は、「セカンドキャリア」という呼ばれ方で注目を集めるが、大橋さんは引退後についてどのように考え、現在の生活を選択したのか。話をうかがった。

【大学院生として課題に追われる日々】

 5月下旬、高層ビルが立ち並ぶ東京・新宿駅西口周辺の街路樹は新緑に覆われ、初夏を思わせる季節になっていた。ビジネスマンや学生、インバウンドの観光客が歩道を行き交うなか、上品なベージュのパンツコーデに身を包んだ大橋さんが、小走りにやって来た。

「よろしくお願いします」

 約束の時間までは余裕があるのに、撮影場所にいるロケ班を見て、思わず駆け寄ってきてくれたのだろう。

 真面目で爽やかな佇まいは変わらず。五輪金メダリストに失礼かもしれないが、大橋さんの「小走り」は現役時代から垣間見られていた「普通の人」らしさを感じさせるものだった。

――2024年の誕生日(10月18日)に引退されて、新しい生活を送っていますが、あらためて現在の日常について、説明していただけますか。

大橋 今はイトマンの経営母体である株式会社ナガセの正社員の立場で、イトマンの特別コーチとして各校のイベント、また社外の講演会に足を運んでいます。ほかに現役時代からサポートをいただいているセイコーさんのセイコースマイルアンバサダーとしてイベント等に出席したりしていますが、そうした活動と並行して今年の4月からは学生として東洋大学の大学院に通い、スポーツ栄養学を学んでいます。

――講演会や人前で話すことには、慣れていますよね。

大橋 話す対象者がそれぞれのイベントや講演会で違いますが、まずまずできるようになりました。

――取材では、いつもわかりやすい、具体的な言葉で話す印象がありました。

大橋 やった!(笑) ただ、講演会は引退から半年くらいは多かったのですが、今はそれほどでもありません。というか、今は大学での生活が中心です。基本は大学院生として、課題に追われています。大学を卒業してそのまま大学院に進学する生徒が多いので、いろいろ話していると、自分よりも5歳下の先輩がいたりもします(笑)。

 加えて非常勤講師として大学の水泳の授業に入ったり、大学の栄養科学科の学生の調理実習授業のアシスタントとして、アルバイトの立場で入っています。その実習は、栄養士の資格を取得するうえで参考になると勧められたものです。

――簡単に1週間の流れを教えていただけますか。

大橋 大学院の授業は1日1〜2コマが基本で、月曜、火曜には調理実習の事前準備と実習、水曜は水泳の授業2コマに入って、そのあとに自分の栄養学の授業が6限にあるので出席、木曜も2コマ授業があり、それが終わったら水曜の6限の課題を夜まで学校でこなしています。金曜は比較的フリーな時間ですが、隔週で夕方にオンライン授業を受けています。土日はイベントなどが入れば足を運び、なければ課題をこなしたり、休めるときは休む感じです。

――1日の生活サイクルはいかがですか。競泳選手は朝早かったと思いますが(朝練習は5時や6時から開始)、現在も朝は早いのですか?

大橋 いや、全然早くないです(笑)。朝7時半くらいに起床することが多いです。水泳の授業があるときは10時前くらいにプールに行って、水泳部の学生やコーチたちと話をしたり、少し体を動かしたりします。

 平日は、金曜以外は学校にいる時間が長いですね。授業以外は図書館にいるので、だいたい18時とか19時くらいに学校を出る感じです。

――自炊はされていますか。

大橋 結構していますね。赤羽のキャンパスなので、その近辺で何か食べたりするのかなと思っていたんですけど、そのまま帰宅して、ちゃちゃっと作っちゃうことが多いです。

――授業に関連して、やってみようということですか。

大橋 確かにそれはあるかもしれません。調理実習で先生が作ったものを食べられるんですが、それを見て実際に作り直したりしています。

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著者プロフィール

  • 牧野 豊

    牧野 豊 (まきの・ゆたか)

    1970年、東京・神田生まれ。上智大卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。複数の専門誌に携わった後、「Jr.バスケットボール・マガジン」「スイミング・マガジン」「陸上競技マガジン」等5誌の編集長を歴任。NFLスーパーボウル、NBAファイナル、アジア大会、各競技の世界選手権のほか、2012年ロンドン、21年東京と夏季五輪2大会を現地取材。229月に退社し、現在はフリーランスのスポーツ専門編集者&ライターとして活動中。

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