検索

中谷潤人のLAキャンプ密着ルポ コーチの「奇特な練習」を忠実にこなす姿に見た、選手にとって最も大事なもの (3ページ目)

  • 林壮一●取材・文・撮影 text & photo by Soichi Hayashi Sr.

【メイウェザーはトレーナーだった実父と決裂】

 スーパーフェザーからスーパーウエルターまで5階級を制し、1990年代末から15年もの間、パウンド・フォー・パウンドの名を恣(ほしいまま)にしたフロイド・メイウエザー・ジュニアも、指導法を巡って、トレーナーを務めた実父をコーナーから外している。ボクシング界において、選手と指導者の関係とは、危険を孕む。

 アトランタ五輪で銅メダリストとなったフロイド・ジュニアは、デビューから16戦を元世界王者(WBAスーパーフェザー、WBCスーパーライト)の叔父、ロジャーと共にこなした。IBFウエルター級1位でキャリアを終えたシニアは、息子のデビュー時、麻薬売買の罪で収監されていた。父親の出所後、親子でリングに上がるようになったが、いつしか「このクソ野郎。俺の前から消えろ!」なる言葉を浴びせるほど、親子関係は悪化してしまう。

 フロイド・ジュニアは叔父を選んだ。2020年58歳で鬼籍に入ったロジャーは、生前、決裂の理由を述べた。

「兄の教え方が悪いんじゃない。私の考えの方がフロイドと合うんだ。コンビネーションを多用する、よりアグレッシブなスタイルさ。フロイドのパンチ力は私より弱いんじゃないかな。ボクサーは自分に合ったスタイルを確立しなければいけない。短所を長所で補うことも大切だ」

 どんなに才能に満ち溢れていても、それを引き出す指導者の存在が無ければボクシング界で成功することは難しい。中谷はルディと出会えた。また、3階級を制しながらも、素直に他者の意見を聞く耳を持っている。

「メイウェザーは、もらった言葉に対して『やってみよう』という気持ちがなかったのでしょう。ルディはアイデアが豊富で、日々の練習でいろんな気づきがあって、楽しめています。アドバイスを受けたら、それを試したい自分もいるんですよ。気づきのたびに、よりボクシングの魅力を感じます。

 僕はまだ、現状の自分に納得できていないんです。今回のキャンプまでは接近戦の折、上体の動きで相手のパンチを外していました。でも、体をサイドに置いたり、『ガードしてブロックしろ』と指示されたんです。微調整ですが、その積み重ねが自分を強くしてくれると感じています」

3 / 4

キーワード

このページのトップに戻る