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中谷潤人のLAキャンプ密着ルポ コーチの「奇特な練習」を忠実にこなす姿に見た、選手にとって最も大事なもの (2ページ目)

  • 林壮一●取材・文・撮影 text & photo by Soichi Hayashi Sr.

【かつて名伯楽が語った「選手にとって最も大事なもの」】

 今日、中谷が目標のひとつとするパウンド・フォー・パウンド。もし、全階級の世界チャンピオンが同じ条件で拳を交えたら、誰が最強かを占う架空の理論である。21名の世界チャンピオンを指導した伝説のトレーナー、故エディ・ファッチは「実際に戦わないのだから、この論議は無意味だ」と述べている。そんなファッチは「選手にとって最も大事なものは、ボクシングに対する姿勢だ」と説いた。

 ジョー・フレージャー、ケン・ノートン、ラリー・ホームズ、マイケル・スピンクス、トレバー・バービック、リディック・ボウと、ヘビー級だけで6名を手掛けた名伯楽は、1990年代前半にトップの座をつかんだボウと袂を分かった。

 1988年のソウル五輪で銀メダルを獲得し、イベンダー・ホリフィールドを下して統一ヘビー級王座に就いたボウが若手だった頃、ファッチは預かった選手の人間性を見極める"実験"をした。

「明日、私は用事があって朝のロードワークに付き合えないが、きちんと走っておくんだぞ」

 そう言い渡して、翌朝、物陰に隠れてボウがきちんと走るかどうかを観察したのだ。196cmの巨体が迫ってくる姿を目にし、「この子なら信頼できる」と二人三脚を続けた。だが、3冠統一ヘビー級チャンピオンとなったボウは手抜きを覚え、練習に打ち込めずに堕落していく。

 幾度となく忠告したファッチだったが、自ら別れを告げ、不肖の弟子を切り捨てた。1996年に筆者がインタビューした際、名トレーナーは言ったものだ。

「今、彼がどんな生活をしているのかに興味はないし、知ろうとも思わない。もう、私には関係のないことなんだよ。ボクサーが成功するには、努力が欠かせない」

 ルディは全身全霊でボクシングに取り組む中谷を認め、彼の能力を最大限に引き出すことを常に考えている。その仕事ぶりはファッチと通じるものがある。

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