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田中佑美のオフの顔 過去を振り返るのは「引退してから」今は「新しい次の物語がある」 (3ページ目)

  • 石塚 隆●取材・文 text by Ishizuka Takashi

【心は熱く、頭は冷静に】

── 緊張するにしても、しっかりと自分の内側へとシフトすることで、いい状態でスタートラインに立てるわけですね。

「はい。もちろん心臓はドクドクしますし、緊張しています。ですが、アドレナリンを興奮や楽しいといった方向に切り替えられるように、スタート前はコントロールしていますね」

photo by Kojima Yoheiphoto by Kojima Yoheiこの記事に関連する写真を見る── いい緊張との向き合い方ですね。では、競技するにあたり『心技体』すべてが必要だと思いますが、最も重要視している部分はどこになりますか。

「うーん、やはり『心』でしょうね。心が健やかではないと、技も体も成せないと思うので、心が一番大切だと思います。それに心が健やかではないと、人生も楽しめないと思っています。競技の前に、まず人生があるので」

── おっしゃるとおりです。陸上の短距離走はやはり、スタートが重要視されます。先ほどもスタート前に切り替えと言っていましたが、どのようなマインドでスタートに入っていくのでしょうか。

「心は熱く、頭は冷静に。後悔しないようにスタートしようと思い、それを口に出してつぶやいているんです」

── 声にして吐き出すんですね。試合の種類もいろいろあると思いますが、たとえばパリ五輪のような注目度の高い大会では、緊張の度合いも変わりますか。

「自分にとってかけているモノが大きい大会は、やはり違いますね。ただ、歓声が大きいほどテンションは上がるんです。プレッシャーがかかる大会で歓声が大きい時は、あえてそれに対して大きな声を出すというのも、私にとって対処法でもあるんです。たとえばパリ五輪では、ワーッて歓声が湧いたら、私も大声で叫び返していました」

── そうだったんですね。

「ほかにもプレッシャーに対する対処法はあって、パリ五輪の選考になった日本選手権では、自分の内側で『緊張する』と思うんじゃなくて、信頼のおけるチーム関係者に『私、緊張しています』と正直に伝えていたんです。内側にこもるのではなく、外側に向けて発散してしまう。これはとても有効だと思っています」

── しっかりとアウトプットして、気持ちを整理して本番に挑む、と。

「はい。そうすると自分の振舞いに引っ張られて、気持ちも上がっていくんです」

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