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田中佑美のオフの顔 過去を振り返るのは「引退してから」今は「新しい次の物語がある」 (4ページ目)

  • 石塚 隆●取材・文 text by Ishizuka Takashi

【ゲン担ぎは一切やらない】

── なるほど。レースは予選、準決勝、決勝と1日に何本も走ることになりますが、合間の空き時間はどのように過ごしているんでしょうか。

「レースに関係ないことを考えたり、しゃべったりしていますね。やるべきことは明確化されているので、そこで振り返る必要はなく、次のウォーミングアップに向けてリラックスしています。スマホでネットサーフィンをしたりSNSを見たり。あとはチームの他種目の選手と交流したり。学校の休み時間と同じような感じですね。ずっと緊張をしていても集中力がもたないので」

photo by Kojima Yoheiphoto by Kojima Yoheiこの記事に関連する写真を見る── では、なにかゲン担ぎをしたりとかは?

「それも、あまりないんです。ゲン担ぎって作ってしまうと、できなかった時のことを考えてしまうんです。国内大会ならまだしも、海外の大会のようなイレギュラーな状況だと、ゲン担ぎを遂行するのが難しくなるので、私はルーティンや勝負メシなども含め、一切やらないタイプなんです」

── 環境が変わればできなくなる可能性がある。

「それにゲン担ぎの始まりって、おそらく成功体験から来ていると思うんです。たとえば、右足からグラウンドに入って記録がよかったから、明日も右足から入ろう、みたいな。けど、毎日いいことが起こるはずもないので、あまり信じていないというほうが正しいかもしれません」

── リアルにはそうでしょうね。スポーツも含め勝負事というのは、『勝ち方のマニュアル』は基本ありません。だからこそ面白いものだと思うのですが、未知の状況に飛び込んでいくのは、お好きですか?

「そうですね。かなりプレッシャーのかかる、大きなストレスを抱える作業だとは思っています。だからこそ、それを楽しむために心の余裕が必要だなと思います。

 結果が出るかわからないけど、今、こういうチャレンジをしている。しばらくやってみて、何だかうまくいかないこともあると思います。

 そういう時に、心に余裕がなかったら『これはダメなんだ』ってパニックになってしまうでしょうが、心に余裕があれば『もうちょっとやってみるか』と思えたり、もう少し優しい感じで方向転換できたり。同じ状況に追い詰められても、その時に採る選択肢ってぜんぜん違うと思うんです。

 答えのない問いを求め続けるアスリートであるからこそ、心に余裕を持って、競技を楽しむことを絶対に根底から忘れてはいけないと思っています。自分のこれまでの失敗も踏まえてのことなんですけどね」

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