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箱根駅伝2025 打倒3強に燃える創価大学の榎木監督「ダークホースという評価はもういらない」

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun
  • 辻晋太朗●撮影 photo by Tsuji Shintaro

チームの仕上がりへの手応えを語る榎木監督チームの仕上がりへの手応えを語る榎木監督この記事に関連する写真を見る

創価大・榎木和貴監督インタビュー 後編(全2回)

 國學院大、駒澤大、青山学院大の3強と言われる今回の箱根駅伝。だが、その一角に割って入るかもしれないという予感を抱かせるのが、出雲駅伝、全日本大学駅伝ともに4位だった創価大だ。榎木和貴監督(50歳)が掲げる目標は、ズバリ「往路優勝、総合優勝」。チームの状態、レースの展望を語る言葉には、確かな自信が宿っていた――。

【目前で総合優勝を逃した2020年の教訓】

 創価大を率いる榎木和貴監督は、20192月の就任以降、5大会連続で箱根のシード権を獲得するなど、着実にチームの強化を進めてきた。だが、指導をスタートした5年前は、「これでは箱根駅伝のハーフ(21.0975㎞)など走れない」状態だったという。

「監督になった時、今コーチを務めてくれている築舘(陽介)が4年生だったのですが、彼は1年生の時に箱根に出ていて、23年は出場できなかったんです。走れるメンバーがいるのになぜ箱根に行けないのかとすごく悔しがっていて、箱根に行きたいという強い決意を感じました。でも、練習はというと、箱根はハーフを走るのに距離を踏むことが全然出来ていない。月間500600㎞くらいで、これじゃハーフを走れないよねということで月間750㎞を目標にしました。その結果、嶋津(雄大)(現・GMOインターネットグループ)をはじめ、選手がいいタイムを出していくことで説得力が増し、これをやれば箱根につながるんだというのを早い段階で作れたのが大きかったです」

 

 そんな榎木監督が初めて指揮を執った第96回大会(2020年)、創価大は9区終了時点で11位だった。初のシード権を獲得するには55秒差で前をいく中央学院大を追い抜かなければならない。その重要な最終10区をまかされていたのは嶋津だった。

「嶋津の調子が良かったので10区に置いたのですが、私の指示を無視して突っ走っていったんです。23㎞もあるのに、どこに根拠があってこんなペースで突っ込むんだというくらいで、(運営管理車から)何回も『落ち着け』と言ったんですけど、まったく聞いていなかったですね(苦笑)。最終的に区間記録を出して9位でゴールするのですが、嶋津は攻めるタイプだったので、彼を10区に置けたのは良かったのかなと思います」

 榎木監督は1年目で9位という結果を残し、創価大史上、初めてシード権を獲得した。それから5大会連続でシードを確保しているが、とりわけ第97回大会(2021年)は往路優勝、総合2位と大躍進を遂げ、「創価大は侮れない」との印象を他大学に残した。

「この時は、学内で2840秒台が4人出て、しかも適材適所でメンバーを置けたので、かなり自信がありました。1年目でシードを獲れたので、2年目はハードルを上げて、ダメもとで目標を総合3位にしたんです。学生たちはぽかんとして、初めてシードを獲れたのにもう3位かよって感じだったんですけど、私は『これを無理と思うのも自分だし、やってやろうと思うのも自分なので、自分の取り組み次第で変わるぞ』と話をしたんです。コロナ禍で周囲が見えない状況のなか、みんな集中して練習に取り組めて、いい感じに仕上がった。往路優勝もいけるんじゃないかという雰囲気になり、いい状態で箱根に臨めました」

 榎木監督の読みどおり、4区で嶋津がトップに躍り出ると、5区の三上雄太(現・中国電力)が区間2位の走りで初の往路優勝を果たした。その後もトップをキープし、9区終了時点で2位の駒大に319秒差をつけ、優勝をほぼ手中に収めた状態で10区に襷が渡った。だが、ここからレースが暗転することになる。

「たぶん、私を含めて、見ていた皆さんも優勝を確信していたと思うんです。でも、走った本人だけがそう思えずにビビってしまった。いい流れを受けて、プラスアルファの力を出して勢いをつけてくれるのかなと思いましたが......。あとから聞いた話では、緊張して何も手につかなかったようです。この時の反省から、あらためて直前まで選手を見極めていこうと思いました。優勝したらまた違うものが見えていたのかもしれないですが、満足して、その後に低迷していたかもしれません。でも、優勝できなかったことで、優勝したいという思いでチームのベースを年々アップすることができています。シード圏内でなんとか耐えるという年もありましたが、今年は『3大駅伝で優勝』を目標にしてチーム作りを進めてきました」

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著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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