パリオリンピック直前! マラソン代表小山直城「キプチョゲらアフリカ勢に喰らいつきたい」オリンピック後の目標も明かす (3ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

 まず、取り組んだのがラスト10キロでスピードロスをしないためのスタミナ強化だ。90分以上走るロングジョグの回数を増やすことで走行距離が100キロほど増え、月間で800キロを超えるようになった。また、暑い夏のパリを走るために省エネ走行を実現するためにフォームの改造も行なった。

「フォームの動画分析を大阪体育大学の研究室でやってもらって、マラソン向けの走りに改善しているのですが、簡単にいうと蹴り上げない走りです。マラソンに蹴る動作は必要なく、接地は置く感覚なんです。また、臀部を強化し、大きい筋肉を使うことによってマラソンの距離に足が耐えられるようになりました。意外とうまくフィットしたのですけど、切り替えるのはなかなか難しいですね」

 小山が難しいと思ったのは、フォームの変化だ。駅伝はスピードが求められるのでフォームをそれ用に変え、駅伝が終わるとマラソン用のフォームに戻す必要がある。

「フォームを変える期間にうまく切り替えないとケガにつながってしまうんです。だからニューイヤー駅伝があって、年明けのマラソンになるとフォームをスイッチするのがけっこう難しい。ただ、今年に関していうと、ニューイヤーから2月の大阪マラソンはうまく切り替えることができましたし、それが結果(3位・2時間06分33秒)にもつながったと思います」

 パリ五輪への準備は着々と進んでいる。昨年、現地に赴きコースを試走し、ポイントになるだろう箇所を確認した。

「パリ五輪のコースは、15キロと33キロに起伏があるんですけど、最初の15キロのほうが厳しい感じがしました。石畳もありますが、路面よりもそこの起伏がけっこう大変ですね。暑さに関しては当日にならないとわからないので何とも言えないですけど、湿度はそれほど高くならないんじゃないかなと思います。レース展開としては、先頭集団に入ってラストの駆け引きで勝負したいですね」

 参考になるのは、東京五輪のマラソンのレースだ。暑さのなか先頭集団を形成し、冷静に飛び出すチャンスをうかがい一気に勝負を仕掛けたエリウド・キプチョゲ(ケニア)の戦術は、そのタイミングといい、スピードといい、すばらしかった。

「35キロ以降の勝負、キプチョゲ選手が出た時に誰もついていけなかったので、単純にすごいなと思いました。暑さがあるなかあれだけの走りをしましたので、パリ五輪もキプチョゲを始め、アフリカ勢は暑さに関係なく、どんどん攻めのマラソンをしていくでしょう。そこに喰らいついていけるような展開にしたいです」

 パリ五輪で狙うのは、8位入賞だ。

「東京五輪で大迫(傑)さんが6位入賞をして、自分たち日本人もこのくらいやれるんだという自信を持つことができました。パリでは、相手の動きを見たり、状況判断をしっかりして、ラストの駆け引きで後手にならないように戦って、入賞したいと思っています。メダルは欲しいですが、まぁ甘くはないでしょう」

 ちなみにパリ五輪後の目標もすでにある。

「ニューイヤー駅伝で区間賞を獲って、優勝に貢献することですね。今まで区間賞を獲ったことがないので」

 駅伝好きの小山らしい挑戦だ。
(おわり)

著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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