箱根駅伝へ青学大の揺るぎない決意が見えた陸上日本選手権5000m 鶴川正也の日本人学生最高記録と黒田朝日の攻め (3ページ目)

  • 和田悟志●取材・文・写真 text & photo by Wada Satoshi

【実力者揃いの1年生が目立たなかったワケ】

 今回の日本選手権には、青学大から鶴川、黒田、折田壮太(1年)の3人が出場。また、同時開催のU20日本選手権には、3000m障害に黒田然、5000mに安島莉玖、小河原陽琉、飯田翔大、遠藤大成、橋本昊太と多くのルーキーが出場した。

 しかしながら、鶴川の快走と黒田のチャレンジングなレースを除くと、実力者ぞろいの1年生たちがこぞって14分台と奮わず、いささか寂しい結果に終わっていた。そのことが気になっていたが、鶴川の話を聞いてチームがこのようなフェーズに入っていたのを知り、合点がいった。

 とはいえ、青学大がトラックをおろそかにしているというわけではない。

「駅伝で戦っていくなかでも、トラックの5000mなど比較的短い距離のスピードはやっぱり必要なのかなと思っています。そのなかで青学のメンバーも、しっかりトラックで走れる力が付いてきている」

 黒田はこんなことを話していた。

 確かに青学大は駅伝の活躍の印象が強いかもしれないが、今年の関東インカレではトラックでも強さが光った。

 思い返せば、昨季のトラックシーズンも決して悪かったわけではない。昨年度の関東インカレでは、3000m障害で小原響(現・GMOインターネットグループ)が大会新記録で優勝し、1500mを宇田川瞬矢(現3年)が制したほか、鶴川の5000m3位をはじめ多くの入賞者を輩出している。さらに、日本選手権でも、小原が3000m障害で4位入賞を果たしている。

 しかし、ライバルの駒澤大がトラックシーズンにそれ以上のインパクトを残したために、駅伝シーズンを迎える頃にはすっかり青学大のトラックの印象が薄れていた。箱根駅伝よりも距離が短い出雲駅伝と全日本大学駅伝で優勝争いに絡めなかったことも、その一因だったかもしれない。

 年々、大学長距離界のレベルが上がっている印象があるが、大学ごとに箱根駅伝に向かっていく道筋は異なる。青学大の場合、このように早い時期から準備を始めることが、箱根の強豪としてあり続けるための策なのだろう。

 関東インカレの際に鶴川は「青学大に入ったのは、箱根駅伝で活躍したい、優勝に貢献したいという気持ちがあったから」と、いまだ経験していない箱根駅伝への思いを口にしていた。一方の黒田朝日も「青学は駅伝で勝つチームなので、学生のうちは青学の流れに乗ってやっていきたい」と話した。これほど箱根駅伝に向けたチームの意志は揺るぎないものなのだ。

 トラックシーズンに強烈なインパクトを残してなお、駅伝シーズンに向けても隙を見せるつもりはない。

プロフィール

  • 和田悟志

    和田悟志 (わだ・さとし)

    1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。

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