絶対女王・名城大が富士山女子駅伝6連覇へ 「負けちゃいけない」から「負けてもいい」と意識を変え「過去最強チーム」が誕生 (2ページ目)

  • 和田悟志●取材・文 text by Wada Satoshi

【もう負けたほうがいいよ...監督の言葉の意味】

「勝つのが厳しい」。今季、米田勝朗監督は覚悟したことがあった。

 全日本大学女子駅伝でも富士山女子駅伝でも、過去に立命館大が5連覇を果たしているが、昨季の名城大はその連勝記録を全日本で塗り替え、富士山ではついに並んだ。

「昨年度は、新しい歴史をつくるために、絶対に勝ちたいという気持ちで12月までずっとやってきました。学生たちもきつかったと思うんです。それをやり遂げて、気持ちがふっと抜けるのは仕方なかった。私にも休ませたいという気持ちがあったので、そういう時間を設けたのですが、新年度を迎え、4月、5月、6月と、いつまで経ってもチームが変わってこない。結果的には9月の日本インカレぐらいまでチームがまとまってきませんでした」(米田監督)

今季の名城大チームについて語る米田勝朗監督 photo by Nike今季の名城大チームについて語る米田勝朗監督 photo by Nikeこの記事に関連する写真を見る もちろん選手たちが手を抜いているとは思っていない。だが、勝ち続けてきたことで、チームにあった厳しさや勝負に対するこだわりが薄れてきているように指揮官は感じていたという。

 学生の枠を超えた活躍を見せていた小林成美(現・三井住友海上)や山本有真(現・積水化学)が卒業し、チームの中心となる選手がなかなか現れなかったことも、うまくチームが機能しないことの理由だった。

「今まではすばらしい先輩方がいて、いわゆるディフェンダーという立ち位置で勝たなきゃいけない駅伝でした。チーム内の厳しい選考を勝ち抜けば(本番は)エキシビションマッチというか、あとは自分の走りをするだけ、みたいな感覚でした」

 こう話す谷本七星の言葉からも読みとれるように、昨季までのチームには、勝つのは当たり前という空気があった。また、絶対的エースがいる安心感も大きかった。

 今季も下級生を中心に力のある選手がそろうが、昨季までとは明らかに流れが違った。

 全日本の7連覇は難しいのでは......。指揮官の胸中ばかりか、世間の見方も同じだった。

「勝ち続けているがゆえに大事なことを忘れかけている」。そう思った米田監督は選手たちにこんな言葉をかけた。

「自分たちがやるべきことをちゃんとできないんだったら、もう負けたほうがいいよ」

 駅伝で勝利しか知らない選手たちなのだ。指揮官の言葉にショックを受けないわけがなかった。

「メディアで『名城危機、崖っぷち』という報道をたくさん見てきたし、今まで言われたことがなかった『負けてもいいと思う』と言われて、悔しかった。チームのみんなが勝ちたいっていう思いを強く持った」

 谷本がこう振り返るように、監督の言葉や世間の評判で、選手たちの目の色が変わった。

全日本大学女子駅伝で3年連続区間賞の谷本七星 photo by Nike全日本大学女子駅伝で3年連続区間賞の谷本七星 photo by Nikeこの記事に関連する写真を見る

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る