引退寸前からMGC出場へ 細田あいが高橋尚子からのアドバイスを受けて描くレース展開 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by YUTAKA/アフロスポーツ

【高橋尚子のアドバイスどおりコースの下見に】

 その後は、MGCに向けて海外で高地トレーニングを行ない、その流れで今年3月の東京マラソンに出場。細田は、2時間2208秒のセカンドベストで、日本人2位、総合7位と結果を残した。それから「スピード強化に加え、距離も踏んで両方をマラソンに活かしていく」というプランを描いていたが、体調を崩したり、故障もあって、トラックシーズンは「グズグズの状態」だったという。レースの出場も監督からは「無理に出る必要はない」と言われていたが、「レースの間隔があいてしまうと緊張の度合いが上がってしまい、不安が大きくなるのでレースに出たい」と監督に直訴。7月ホクレン深川大会の3000mに出場し、夏合宿に入った。

「ここまで順調とは言えないですね。自分の思うような流れが出来ていない」

 細田はそう語るが、その表情に悲壮感は見られない。

 MGCに勝てば、パリ五輪への切符を手にすることになる。細田にとってパリ五輪は、どういう位置付けなのだろうか。

「東京五輪も狙っていなかったわけではなかったんです。でも、前回はMGCに出場できなかったですし、ファイナルチャレンジのレースに出たけど勝負にならなかった。五輪の選考にまったく絡めなかったですが、今回はパリ五輪に手が届くというか、そのチャンスがあるので、自分の力を発揮して勝ち取りたいです。年齢的にはパリの次のロス五輪の方がさらに脂がのっていると言われますけど、その時、どうなっているかなんて誰も分からないじゃないですか。今、パリを狙える位置にいるなら、そこに手を伸ばさないわけにはいかないです」

 その前に、MGCという大一番を乗り越えていかなければならないが、レースコースはすでに下見をして頭の中に入っている。

MGCのレースコースの会見の時、高橋尚子さんとお話しする機会があって、自分はコースはレースギリギリで確認すればいいかなって思ったんです。でも、高橋さんから『レースコースを見て、それをイメージして練習に取り組んだ方がいい』というアドバイスをいただいて、夏合宿前に見に行きました。35キロから40キロまで地味に上りがつづきますし、間違いなくこの辺でレースが動いてくるだろうなって思いました。ただ、自分が気になったのは40キロを超えたところの下りです。足が動かなくなってきたところで下りなので、勝手に進んでしまうため、足へのダメージが大きいなと思いました。キツイですけど、ここが最後の勝負所かなと思います」

 ラストは下って、ゴールの国立競技場に飛び込んでいくことになる。

「ここ(国立)に1番か2番で入ってくるのが理想です。大きなレースになると何とかなるでしょと思う自分と、本当に自分の能力を出せるのか不安に駆られる自分がいるんですけど...一度、本気で陸上をやめようと思った時に、支えてくれた人達に喜んでもらいたい。当日は、みなさんが応援に来てくれるみたいなので、まだ頑張っていますよという姿を見せられたらいいかなって思っています」

PROFILE
細田あい(ほそだ・あい)
1995年11月27日生まれ。長野東高校から日本体育大学へと進学し、本格的に駅伝に取り組みはじめる。1年時から全日本大学女子駅伝に出場するなどし、「日体大のエース」と呼ばれるまでに。卒業後、ダイハツ→エディオンと進み、2022年開催の「名古屋ウイメンズ2022」で2時間24分26秒を記録し、MGCへの出場権を獲得。同年10月に開催された「2022ロンドンマラソン」において日本歴代8位となる2
時間21分42秒を記録した。

プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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