「高橋尚子さんになりたい」マラソン安藤友香が「最後の大きなレースになるかもしれない」パリ五輪に秘めた決意 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 森田直樹/アフロスポーツ

【もっと大人にならないといけない】

 そういう世界に身を置き、苦しいマラソンを走るのはいったいなぜなのか。

「もうこれ以上、絶対に練習をやりたくないというぐらいまで練習をして、それが報われて結果が出た時の達成感ですね。それを味わうとやめられない。私の先輩の福士(加代子)さんは、たくさん苦労されて、失敗もしましたけど、それでも真摯に練習に取り組んでこられた。レースで練習の成果が出た時、会場がひとつになって歓喜に沸く瞬間とかを見ていると、私もそういう風になりたいなぁと思って憧れていました。」

 その瞬間を味わうために、安藤は東京五輪後、パリ五輪に向けてマラソンにシフトして練習を始めた。翌22年の名古屋ウィメンズマラソンでは、2時間2222秒で総合3位、日本人トップの成績を収めた。今年の大阪国際女子マラソンでは、2時間2259秒で総合3位、日本人トップだった。東京五輪以降、調子の波が少なくなり、安定した成績を残している。

「安定した成績を残せているのは、競技力の向上もあるんですが、いろんな方と出会って人間的に多少は成長出来ているからかなって思います」

 安藤は、自分の性格をせっかちで、予定通りに物事が進まないと「ストレスを感じるタイプ」だと苦笑する。6月、アルバカーキ(米ニューメキシコ州)での合宿を終え、日本に帰る際、飛行機が欠航になった。海外ではよくあることだが、「まじか」と思った。翌日には帰れるかと思ったが、なかなか戻れず、ストレスを感じた。

「その時、数名選手がいたんですが、『一番冷静じゃなかった。そういうところもレースに出るので、これもMGCに向けてのひとつの練習だと思って』とスタッフから言われました。きちんと時間通り、予定通りに進むのが理想ですが、陸上、特にマラソンは何が起こるか分からないですからね。そういう意味では、もうちょっと落ち着いて対応できるように、大人にならないといけないですね(苦笑)」

 成績は安定してきているが、安藤の目標は日本人トップではなく、あくまでも総合でのトップ。自己ベストも6年間、遠ざかっているが、実は今年の大阪国際女子マラソンの時は手応えがあった。しかし、"もうひと越え"ができなかった。何が足りないと感じたのだろうか。

「勇気ですね。マラソンって、回数を重ねていくといろんなことが分かるので、初マラソンの時にように行っちゃえという感じで走れなくなるんです。大阪の時も30キロからちょっと引いてしまったんですよ。マラソンは、それだけで足の動きが遅くなったりする、すごく繊細なもの。その一歩を踏み出す勇気が必要だなって思います」

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