競歩でまた金メダル。優勝した山西利和が喜ばなかったのはなぜ?
世界陸上の男子50km競歩で鈴木雄介(富士通)が獲得した金メダルに続き、20km競歩でも金メダルが誕生した。
レース2日前の会見で、山西利和(愛知製鋼)は「金メダルをターゲットにして、そこから逆算して練習を積み上げてきた。当日は最後の手順を踏んでいけばいいと思っている」と、自信に満ちた表情を見せていた。そして、ドーハの現地時間10月4日の深夜23時30分にスタートしたレースでは、その計算が間違っていなかったことを証明した。
大きな喜びは見せなかったが確実に力を世界に見せつけた山西利和 気温32度、湿度77%の過酷な条件。滑り出しは最初の1kmが4分32秒で、2kmまでも4分30秒。その流れは、5kmまでほぼ変わらなかった。
レースが動いたのは6kmの少し手前。2016年の世界ジュニア1万m優勝のカルム・ウィルキンソン(イギリス)が前に出ると、それを昨年のアジア大会で山西を抑えて優勝した王凱華(中国)が追いかける。王は6kmで追いつくと、そこからウィルキンソンをジワジワと離し、6.3kmあたりで独歩状態を作り出した。
先頭争いを淡々と追いかけていた山西は、7km手前でウィルキンソンを吸収した集団から抜け出し、7.3km付近でトップに出ると、8kmまでを4分15秒で歩いて後続に差をつけていった。
「抜け出した時に誰もついてこなかったけど、そこでペースを落として追いつかれてしまうと消耗しただけになる。そこは、ひとつの決断でした。そのまま行くか、ペースを落としてもう一回力を溜め直すか......。でも、集団の中を歩いていると位置取りも大変だし、ストレスもたくさんあったので、そこを天秤にかけました」
山西はそのあとの9kmまで4分15秒で歩き、2位との差をさらに広げた。そこから再び4分20秒台に落としたが、後続はペースを上げられず、なかなか詰めてこない。
「7km過ぎで出たのは、あのまま行くとラスト勝負になる可能性があったからでした。スウェーデンのハーシー・カールストレーム選手を警戒していましたが、ラスト勝負になると、彼のような体の大きな選手やスピードのある選手が有利になる。
僕の良さを生かすためには、ある程度体力が削られた状態でラスト勝負に持ち込む必要があるんです。あの状態で前に出た僕を追って全体のペースが上がれば、体力を削り合うサバイバルレースになって良さが生きてくる。無理のないマイペースを刻み、追いつかれたらそこからまた勝負を仕切り直そうと思っていました」
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