鈴木雄介、金獲得の裏に恐怖心「どんなペースなら最後まで行けるか」 (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文・写真 text&photo by Oriyama Toshimi(人物)
  • photo by Nakamura Hiroyuki(競技)

 そんな冷静な判断があったからこそ優勝できた鈴木。この暑い中でのレースは、来年の東京五輪へ向けて貴重な経験にもなった。

「気温や湿度が高いと、低い時に比べて体も全然違う。同じ心拍数でもダメージは残ってしまうので、東京五輪へ向けてはいい指標になった。レース自体も来年はもうちょっとレースを落ち着かせなくてはいけないというのもわかりました」

 さらに今回は給水も、冷たい物を飲んだ方が内臓から体温の上昇を抑えられるだろうと冷やして飲んでいたが、逆に冷えすぎてトイレに2回行く原因になったのではないかと感じた。自分を実験材料として、東京へ向けてのデータを取れたのは有意義だった。

「とにかくゴールすることしか考えていなかったけど、止まって給水を取るのを見た人たちはみんなハラハラしたみたいで。普通にゴールしていたら『暑い、暑いと言うけど、そんなでもないのかな』と思われたかもしれないけど、止まったことで本当にきついんだとわかってもらえたのは、よかったですね」

 世界記録を出して以来、自分が日本競歩のパイオニアだと自負するようになっていたが、日本競歩の悲願のメダル獲得は、16年リオ五輪の50kmに出場した荒井広宙(ひろおき/富士通)が銅メダルを獲得したことで、自分が故障している間に達成されてしまった。「悔しかった。だからこそ自分が、日本初の金メダルを獲れたことは東京五輪内定よりうれしい」と笑顔を見せる。

 この暑いレースを歩いて制覇したからこそ感じたことを、来年の東京五輪に向けてブラッシュアップしていけば、再び金メダルが見えてくるだろう。

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