為末大が語る「体罰問題」。選手と指導者の正しい関係とは?

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko photo by Yamamoto Raita

『スポーツ紛争地図』vol.5 part.1

 為末大というアスリートをひと言で表すとすれば「自立のパイオニア」であろう。指導者からの自立、競技団体からの自立、そして経済的な自立。

 長い間体協がかり、企業がかりが普通であった日本のアマチュアスポーツ界において、安定企業を飛び出して賞金レースへの参画という道を選んだ男は、組織に頼らず競技者としてのグランドデザインを自ら描き、世界陸上で2度のメダルを獲得した。

 9月26日、桜宮高校の体罰自殺事件の判決が大阪地裁で出された(バスケ部元顧問に懲役1年執行猶予3年の有罪)。全柔連の度重なる不祥事を含め、昨年来、日本のスポーツ界を襲ったモラルハザードを彼はどう見ているのか。自らの半生の回顧も含めて言葉を紡いでもらった。

  「今振り返ってみると、僕の場合、『自立するんだ』と思って動いたというよりも、自立せざるを得なかったという方が正しいですね。中学時代から続けていた100mからハードルに種目を変える時、初めて周囲のアドバイスと自分がやりたいと思うことが対立したんです。今考えるとあれは議論だったと思うんですが。

 確かに100mでトップにいることが『厳しくなってきた』というのは僕も薄々感じていて、実際にレースに出てもダメで、その辺りから陸上で生き延びるためには『じゃあハードルで』という一連の流れがあったんです。陸上競技で勝負するために一番良い方法を選ぼうと思ってハードルを選んだ。この辺りの『自分自身の人生を選んでいく』という感覚が、自立の芽生えだったんじゃないかなと思います」

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