2018.11.30

退路を断って成長。パラテコンドー・
伊藤力が東京パラ初代王者を狙う

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • photo by Murakami Shogo

 パラリンピック”初代王者”を狙う男がいる。パラテコンドーの伊藤力(セールスフォース・ドットコム/クラスは-61kg、K44)だ。

 パラテコンドーは東京2020パラリンピックで正式競技となる。ルールは頭部への攻撃が禁止されているが、それ以外は一般のテコンドーとほぼ同じだ。右上腕切断の伊藤は、2016年に競技を始めたばかりながら、2017年には US オープンで金メダルを獲得、同年の世界選手権でベスト8と結果を残し、早くも将来を期待される存在へと駆け上がった。

東京パラリンピックに向けて現在地を語ってくれた伊藤力選手 パラテコンドーの場合、突きはポイントにならず、有効ポイントは蹴りによる胴への打撃のみ。つまり、基本は足技の応酬となるため、フィジカル的にはブレない体幹と高い柔軟性が求められる。「でも僕、競技を始めたころは本当に体が硬くて……」と伊藤。中学で剣道、高校で硬式テニス、社会人でフットサル、仕事中の事故で右腕を切断したあとはアンプティサッカー(切断者によるサッカー)と、さまざまなスポーツに取り組んできたが、「足は上まで上がらないし、身体も曲がらない。一番しっくりくる言い方をすると、柔軟性は”ヤバイ”状態」だったと、苦笑いを浮かべる。

 そんな彼も、いまや世界の猛者と戦うトップ選手に成長。「普段から健常者とともに稽古し、鍛えられるのが、パラテコンドーの魅力のひとつ」と語るように、伊藤も週の半分は都内や千葉県の道場などで、有望な大学生らと汗を流す。歩きながら足を上げてストレッチを行なう柔軟から始まり、空蹴り、ミット蹴りと続き、「この時点で、相当息が上がる」と言うが、稽古をこなしていくうちに柔軟性が増し、しなやかな上段蹴りも自然にマスターしたそうだ。

 伊藤の場合、相手の攻撃を防御する際、残された右腕の一部と左手一本で防ぎ切る必要がある。義手を使ってトレーニングする選手もいるが、試合では義手は着用できないルールになっているため、伊藤は普段から着けていない。両腕のある健常者と稽古することで、反射神経や動体視力、相手の動きを先読みする力が養われ、実際の試合では楽に動けるメリットがあるという。