競輪・岩本俊介が41歳にしてS級S班(上位9人)で奮闘中 陸上への未練と変化、無茶な練習を経て辿り着いた境地も明かす (3ページ目)
優しい笑顔で誠実に語る姿が印象的 photo by Hirose Hisayaこの記事に関連する写真を見る
【人として成長することで自転車が進む】
岩本はもともと陸上短距離の選手。学生時代は大学3年、4年と関東インカレ2部100mを連覇したキャリアがあり、日本選手権に出場したこともある。「陸上のスプリント力、瞬発力が自転車につながっている部分はあると思う」とは認めつつ、競輪としての自分の強みはそこだけにあるとは考えていない。2024年には通算400勝を達成したが、その安定した強さの秘密はどこにあるのか。それを語る言葉からは岩本らしさを垣間見ることができる。
「自分の武器はいろんな要素が関わっていて、一言では言いづらいですね。今は中村浩士さん(79期・千葉)とともに練習をするようになり結果を残せていますが、そのタイミングもよかったと思いますし、そうした縁から体が変化し、そこに精神面もついてきた感覚です。
ただそれだけでなく、これまで影響を受けた人は多くいて、そうしたことが積み重なって今の自分があると思っています。結婚し、妻やそのご両親から受けた影響で、自分がよくなっている部分があるとも思っているんです」
心がけてきたのは練習に積極的であること、そして自分に正直でいることのふたつ。強くなるために必要な取り組みの取捨選択は、シビアにやってきた自負がある。ただ自分の強みについて、彼の口から肉体的な強化や技術の話はあまり出てこない。
「選手としてというより、人として成長することが大切だと思います。僕は会社勤めをした経験がなく、特殊な世界にいますが、期待を背負って緊張する場面のなかで負ける悔しさ、そして勝ったときに驕り高ぶった気持ちなど、いろんな感情を経験しています。それを繰り返し、毎回反省していくことで少しずつ人としてちゃんとしていくようになり、そのうちに自然と自転車が進んでいくようになったんです」
人間力こそ競輪の競技力と岩本は達観したようだ。淡々と話す姿は長年の修行を積んできた高僧を彷彿とさせる。競輪関係者から"人格者"と評される理由はここにあるのだろう。
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