パリ五輪で話題になったフェンシング「交代選手」はツラいよ 金メダリストが明かす知られざる境遇 (3ページ目)
――東京五輪では、アメリカとの1回戦で登場することになりましたね。
「日本チームがアメリカと相性がよくないことはわかっていたので、『厳しい試合になるかもな......』と予想はしていましたが、実際に試合が始まってみると、日本チームの3選手は思った以上に緊張していて、思うように身体が動かないように見えました。苦しい展開に追い込まれていくチームを見ながら、『おそらく早い段階で、試合に出ることになるだろう』と思っていたら、まもなく僕の出番がやってきました」
――6点リードを許した第8試合で登場した宇山さんは、そこで7-3と4点も差を縮めました。日本チームはそこから大逆転勝利を掴みましたが、この時はどのような思いでしたか?
「もし、僕が活躍できずにそのままチームが負けてしまったら、『交代選手は4番手の選手だから......』と言われてしまう。それは絶対に嫌だったので、『絶対に見返してやる!』という思いで試合に臨みました。試合が終わった時には、周りから冗談混じりで『やっぱり宇山がいないと勝てないな』とも言ってもらえましたし、チームにも多少なりとも貢献できたのではないかと思っています」
――パリ五輪の日本チームは、フェンシングの団体4種目でメダルを獲得しました。チームを救う交代選手の活躍も目立ったように感じましたが、境遇などに変化はあったのでしょうか?
「今回のパリ五輪でも、"救世主"のような存在として交代選手を取り上げられていましたね。今でも交代選手に注目が集まるたびに、『3年前の僕のような辛い思いをしているのかな?』などと意識してしまうことはありますが、幸いにもパリ五輪の代表選手はこれまでのような待遇の差をあまり感じていないようでした。関係者の方には『(東京五輪で)宇山が活躍したおかげだよ』と言っていただきましたが、交代選手の待遇も徐々に改善しているのかなと思います」
【プロフィール】
宇山賢(うやま•さとる)
1991年12月10日生まれ、香川県出身。元フェンシング選手。2021年の東京五輪に出場し、男子エペ団体において日本フェンシング史上初の金メダルを獲得。同年10月に現役を引退。2022年4月に株式会社Es.relierを設立。また、筑波大学大学院の人間総合科学学術院人間総合科学研究群 スポーツウエルネス学学位プログラム(博士前期課程)に在学中。スマートフェンシング協会理事。スポーツキャリアサポートコンソーシアム•アスリートキャリアコーディネーター認定者。
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