パリ五輪で話題になったフェンシング「交代選手」はツラいよ 金メダリストが明かす知られざる境遇 (2ページ目)
――陸上競技や体操などの一部の競技では「補欠選手」が選ばれることもありますが、フェンシグの交代選手とはどのような違いがありますか?
「確かに一部の競技では、出場選手にケガや体調不良などのアクシデントがあった場合を想定して『補欠選手』を選ぶケースがありますが、フェンシングの『交代選手』とは性質が大きく異なります。
一番の違いは『試合出場する可能性』です。『補欠』の選手は、出場選手にトラブルがなかった場合には出場できずに大会を終えることがほとんどです。一方でフェンシングの交代選手は、競技の特性を踏まえても、『ほぼ間違いなく試合に出場する存在』と言っても過言ではありません。
実は、アジア大会や世界選手権といった五輪以外の世界大会では、交代選手を含めた4名が正式な選手として登録されています。団体戦での選手交代の回数も制限されていません。選手交代が戦術的に広く定着していて、4選手を上手に交代させながら団体戦を戦い抜くことが広く浸透しています。なので、たった一度しか選手交代が認められない『五輪のルール』は、フェンシング界ではかなり特殊で、選手たちは普段の試合とは異なるルールの大会に臨んでいるんです」
――交代選手に関する報道を見ると、そのなかには「補欠」や「リザーブ」と書かれているケースも見受けられました。
「僕は意識的に『交代選手』というワードを使っていますが、それは試合のどこかで必ず起用される場面があり、一般的に知られている『補欠選手』のイメージとは異なるためなんです。パリ五輪でも『補欠』といった表記が多く見られましたが、同じ立場に置かれた3年前の僕がそれらを目にして複雑な思いを抱いたこともありました。『フェンシングの団体戦は4人でひとつのチームだ』という認識が徐々に広まっていってほしいです」
【チームの苦境を救う交代選手のメンタリティ】
――宇山さんは交代選手として東京五輪を迎えるにあたって、どのような点を意識されましたか?
「1度しか交代が許されないことを考えると、単なる4人目の選手というよりは、チームの苦境を打破する"起爆剤"としての起用が想定されました。東京五輪の前夜に行なわれたミーティングでも、『もし、チームがどうしようもない状況に追い込まれてしまったら、宇山を出してほしい』とチームのメンバーが話してくれた。なので僕は、負けている試合で地道に1ポイントを取りながら巻き返していくことをイメージしながら、本番に臨みました」
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