児玉碧衣が異様な超スロースタートにも動じず地元でGⅠ制覇 3月の惨敗から「死ぬ気」の猛練習で巻き返す (2ページ目)

  • ハル飯田●文 text by Haru Iida

【スタート直後の異様な光景】

 調子を取り戻した児玉は、初日の成績上位者らによるシードレース「ティアラカップ」で勝利すると、2日目の準決勝でも盤石のレースで1着。決勝では当然のように児玉が本命視されたが、ひと筋縄ではいかないのが実力者のみが勝ち上がるGⅠ。その他6選手もそれぞれがビッグタイトルをつかみ取るチャンスを虎視眈々とうかがい、あらゆる展開を想定しながら本番を迎えた。

 そして、その心理戦は号砲直後に異様な光景となって展開に現れる。レースが始まっても、誰もスピードを上げようとせず、最大限のスロー走行を展開したのだ。

スタート直後、互いをけん制し合い、誰も前に出ようとしないphoto by Takahashi Manabuスタート直後、互いをけん制し合い、誰も前に出ようとしないphoto by Takahashi Manabuこの記事に関連する写真を見る

 すべての選手が「このメンバーで先頭に立っては勝機がない」と判断して巻き起こったけん制合戦は、誘導員がすでに半周回しようかという段階まで停滞し合うかつてない状況に。最終的に小林莉子(東京/102期)が先頭に立つことで一時的に心理戦は解消されたものの、ラスト1周半の打鐘で誘導員が外れると、先行勢が仕切りに後ろを振り返りながらペースを落とし、再びレースはスローダウンした。

 この「先に仕掛けたら負け」だと各々が言外に主張する展開を、児玉は常に後方から見守り続けた。そしてラスト1周、意を決した小林のスパートに呼応して急激に上がったペースにも児玉はピッタリ追走すると、ついにバックストレッチで勝負に出た。5番手だった児玉の車体は第4コーナーに差し掛かる時点で気づけば先頭へと踊り出ており、あとは鋭くゴールラインへ駆け込むだけだった。


「冷静に周りを見て、最後が勝負だと考えていました。連日体が動いていたので、自信を持って乗れました」

 レース後、我慢比べになった展開をそう回顧した児玉は、満面の笑顔で大声援への感謝を述べた。

「競輪人生で一番くらい声援がすごかった。(地元で勝ちたいという)欲が出てプレッシャーも感じていたんですけど『どこの応援団?』ってくらいの声援で緊張がほぐれました」

 優勝した児玉は賞金とともに12月に静岡で開催される最高峰のレース「ガールズグランプリ2024」への出場権も獲得。欠場の影響で後れをとっていた賞金ランキングによる出場権争いからの抜け出しに成功し、昨年6月の「パールカップ」を制して以来、2年連続で"グランプリ一番乗り"を決めた。

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