内村航平が引退後も持ち続ける王者の思考 体操が「できなくなっていく自分も面白い」 競技生活は「よく頑張ったとは思わない」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【継続できたのは「何で?」があったから】

―― 成功体験で終わるのではなく、失敗体験もあるということですね。

「これだけ結果を残しているので一応、成功した人ではあるんですけど、やっぱり失敗のほうが多いので......。結果が出た試合でも納得いってないことのほうが多かったですね。客観的には成功であっても、僕のなかでは成功というより『もうちょっと上がある』という感覚でいつもやっていたので。もちろん練習のほうがよかったり、練習より試合のほうがよかったこともありますが、試合でしか出てこない失敗ももちろんあって。まぁ、どちらにしても面白いと思えていました」

―― だからこそあそこまで継続できたということですね。

「すべてにおいて『何で?』と思えたことがよかったですね。できたことも『何でできたんだろう』だったし、できないことも『何でできないんだろう』でした。すべてにおいて僕は『何で?』と思うようにしていましたね」

―― 今回出版した書籍も、『何で?』と思う好奇心や、失敗することの意味も伝えたいと思ったのですか?

「そうですね。体操だけに限る話じゃないと思うんですね。失敗を恐れないのが大事というか、そもそも僕は『できない』と思ってやっているので(笑)。そういうマインドが大事かなと。できないと思っているところから『どうやればできるのかな』という追い求め方をしてたほうが、『あっ、できちゃった。ラッキー』みたいな喜びも大きいし、できなかったとしても『まあしょうがないよね』と思ってそんなに落ち込まないというか。

 でも『できる』から入った人は、できないときには嫌な気持ちになるだろうし、そこから続かないんですよね」

―― 同じようなミスを何度でも繰り返してしまう人は、「できる」から入っているのでしょうね。

「そうだと思いますが、準備をしっかりやっているかも関係してきますよね。本当に試合と同じような場面を想定して準備しているか、というのもあるし、苦手に対してちゃんとアプローチしているかというのもある。これだけやっておけばいいというのは、多分すべてにおいてないので、誰もが考えつかないようなミスも想定して準備をしておかなければいけないと思います。

 普通に考えれば『それはやらないでしょう』みたいなところでも、意外とやることもあるので。普通に歩いていても、躓いて転ぶこともある。そういうことは、ほとんど起きないことだけど、実際に起こることもあるから、そこまで想定しておかなければいけないと思います」

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