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幕内初優勝を飾った阿炎。「大一番の前によぎったのは師匠の顔」「夢だった大関の座が見えてきた」 (2ページ目)

  • 武田葉月●取材・構成 text&photo by Takeda Hazuki

 くじ引きの結果、第1戦目は高安関と自分が対戦。この相撲、立ち合いで自分が変化したように思われていますが、実は違うんですよ。(正面から)当たっていって、横から攻めようとしたのですが、高安関の当たりが強くて、自分が飛ばされたような感じになってしまって......。気がついたら、高安関が土俵に手をついて倒れ込んでいたんです。

 続く第2戦、勝てば優勝が決まる貴景勝関との対戦です。大関経験者の高安関に対してもそうでしたが、自分はあくまでも挑戦する立場。相手にぶつかっていって、自分の力を全部出せたらいいんじゃないか、と考えていました。

 緊張ですか? この時も緊張することはありませんでした。だって、緊張したら損でしょ(笑)。誰だって、負けるつもりで土俵に上がっていませんしね。

 その時、頭をよぎったのは師匠(錣山親方)の顔でした。

 この場所、師匠は体調がすぐれず、東京の病院に入院していて九州には来れなかったんですが、毎日相撲が終わるとメールを送ってくれ、叱咤激励をしてくださっていました。千秋楽を迎える際にも、「気合いの入った相撲を見せてくれ」というメッセージをいただいていたんです。

 そんな師匠には、これまで迷惑ばかりかけてきました。新型コロナウイルス感染防止におけるガイドライン違反を受けた時には、自ら引退を決意して協会に引退届を提出したのですが、それを撤回するために、師匠が頭を下げてくださった。すべて自分が悪いにもかかわらず、一緒に弁明してくれた師匠のおかげで引退届は受理されず、もう一度相撲を取るチャンスをいただきました。

 それを機に、自分は成長しなければいけない、と強く思いました。だからこそ、大一番を前にして脳裏に浮かんだのは、師匠の顔だったのでしょう。

 迎えた貴景勝関との一番は、とても集中できていました。それゆえ、思いどおりの相撲が取れたと思います。

 結果、押し出しの勝利。頭が真っ白になって、観客の方の拍手や声援もまったく聞こえませんでした。あんな経験は初めてのことです。

 表彰式では、「ウソのような感じ。師匠には、一日一番、集中するように言われていたので、何も考えないでいきました」と言いましたが、実際、その時に起こっていたことが現実とは思えなかったんですよね。

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