渡部暁斗「これ以上、自分のためだけに時間を使うわけにはいかない」。これまでの五輪とは違う想いで臨んだ北京で執念の銅メダル (3ページ目)
【平昌大会以降の変化】
ソチ大会と平昌大会で2位になった当時、渡部は五輪のメダルよりW杯総合優勝に重きを置いていた。「それこそが、ノルディック複合の王者の証」と思っていたが、そのW杯総合優勝を平昌五輪シーズンに獲得してからは、「まだ手にしていない五輪の金メダルに興味を感じる。獲りたいという気持ちが大きくなった」と心境に変化が起きた。
さらに子どもも生まれたことで、「もうこれ以上、自分のためだけに時間を使うわけにはいかない」と臨んだ北京大会でもあった。ただ、過去2大会のように自信があるわけではなかった。
「今日はいいジャンプでしたけど、W杯では表彰台もなくここまで来ていたので。五輪前には『金メダルを獲る』と言って自分にプレッシャーをかけてきたけど、本当に今回に関しては自分のことを全然信じられなくて、大丈夫かと思いながらスタートしていました。だから今シーズンの戦いを考えれば、メダルが獲れただけで上出来だと思います。それに、最後の最後まで金メダルをあきらめずに走れたとも思います」
金メダルまでは0秒6とわずかな差だった。だが渡部は、「ソチ五輪や平昌五輪のほうが金メダルに近いところにいました。今回は本当に遠いところにいたと思います」と言う。だからこそ、「銅メダルに届いたことが本当によかった」と安堵していた。
「思い返せば『なんで最後のストレートでもうちょっと頑張れなかったんだろう』と思うことはありますけど、レースの最中はそこまで考えられなかったですし、エネルギーを頭ではなく体に使おうとだけ考えていました。それでもメダルが獲れたのは執念でしょうね。それはメダルに対してと、自分という人間に対しての両方で。
色はともかく手ぶらで帰るわけにはいかないという思いと、もう自分のためだけに100%の時間を使うのは最後にすると宣言しての挑戦だったから。そういう意味でも出し尽くして終わりたいと思ったし、最後の最後は自分が空っぽになるくらいの気持ちでやり尽くそうという執念でもあったかもしれません」
これは2大会獲得している銀メダルと変わらない価値のある、彼の努力の積み重ねがもたらした、勲章ともいえるメダルに他ならない。
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