渡部暁斗「これ以上、自分のためだけに時間を使うわけにはいかない」。これまでの五輪とは違う想いで臨んだ北京で執念の銅メダル (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

【ハードなレース展開】

 最初の1kmで追走集団の先頭に立った渡部だが、最初の周回を終えて2周目に入るところで、先頭のリーベルがコースを間違えてからコースに戻るミスをしたため、その差を一気に詰めることに成功した。

3.5km手前からはファイストとリーベルと一緒の3人先頭集団になったが、このレースの苦しさを渡部はこう振り返る。

「ポジション的には自分が1位になったなと思ったけど、そこでペースを崩してはいけないから『冷静に』と思って走りました。ただ、けっこうサインも出したけど、協力してくれる選手がいなくてあまり引っ張ってくれないから、いいペースを作りながら走らなければいけないなと思いつつ、うしろとの差を見つつという感じで、すごくハードなレースでした」

6kmを過ぎてからは、渡部の33秒後にスタートした今季W杯総合1位のヨハネス・ランパルター(オーストリア)が追いついてきて4人の集団に。だが、最後の周回に入る頃にはうしろの集団も12秒差ほどまで詰めてきていた。

「うしろに大きな集団が来ているのが見えていたので、『自分で引っ張るのは嫌だな』と思っていたらランパルターが(前に)行ってくれました。そこは彼の心意気にすごく感謝したいと思います。それで最終周回に入った最初の上り坂でリーベルが遅れたので、これはランパルターとの勝負になるかなと思っていたら、彼もかなり疲れていたみたいで、『もしかしたら金が巡ってくるかな』と思いました。でも、最後にはうしろから来たふたりにサクッとやられたので、『思うようにはいかないな』とゴールしてから改めて反省しました」

 渡部が先頭に立ったが、最後はうしろから追いついてきたヨルゲン・グローバクとイェンスルラース・オフテベロ(ともにノルウェー)に襲い掛かられ、グローバックには0秒6差、オフテブロには0秒2差で3位となった。先頭を引っ張る場面も多く、最後まで力は残っていなかった。

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