大ケガを負って「相撲をやめよう」と思った栃ノ心が再起できたわけ (3ページ目)

  • 武田葉月●取材・構成 text&photo by Takeda Hazuki

 午前中は、稽古場で一緒に稽古して、ちゃんこを食べて......。ちゃんこを食べたあとは、力士は昼寝をするんですが、彼は力士たちが寝ている場所にもやって来て、私とか、栃煌山とかの横で、ず~っと喋っているの。かわいいんだけど、こっちは眠いから「もう寝かせてくれよ」って、ずっと思っていました。ほんと、元気でうるさい子でしたから(笑)。

 それから、10年ぐらいの時を経て、私が大関から落ちるかもしれないという瀬戸際で、2人は対戦することになった。私の中では、貴景勝とのそんな思い出もあったので、対戦前夜から緊張していました。

 もちろん、気合いもかなり入っていました。しかし残念ながら、その時の貴景勝の勢いには勝てませんでしたね......。

 新十両を決めた一番、新入幕で勝った一番、優勝を決めた一番......。私にとって、大事な相撲はいくつかあるんですけど、この時の貴景勝戦は、やはり特別な一番だったと思うんです。

 私の相撲は、相手のまわしを取って捕まえて、という四つ相撲。その相撲じゃないと持ち味を発揮できないんですけど、貴景勝は捕まえづらいから、本当にやりづらい相手です。結果、あの相撲も3秒ちょっとで負けてしまって......。もちろん、「次こそは」という思いは常に持っています。

 少し話が逸れてしまいましたが、2008年に十両に昇進したあと、順調に幕内力士となって、安定した成績を残せるようになった私は、やや気持ちが舞い上がっていたかもしれません。

 決して天狗になっていたわけではないのですが、お酒の飲み方や、服装の乱れ、部屋の門限を守らないなど、今にして思えば、力士として反省しなければいけないことが多かったのは、事実です。そうやって"いい気"になりかけていた私を、師匠は厳しく叱責してくれたのですが、悪夢が襲いかかります。

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