10代クライマーが次々と台頭。でも、女王・野口啓代の背中はまだ遠い (2ページ目)

  • 津金壱郎●取材・文 text by Tsugane Ichiro
  • photo by AFLO

 TOPホールド手前の壁に隠れるようにつけられたホールドを、野口は取りにいこうとしてフォール(落下)したが、森はその存在を見落としていて、一気にTOPホールドに飛びついたが届かなかった。

「予選でオブザベーションのミスをしていたのに、決勝でも同じことを繰り返してしまって。登り終わってから気づきました。まだ余力はあったので悔しいです」

 競技後に連覇を逃した悔しさをにじませた森だが、彼女にとっては収穫の多い大会になった。

 昨年の森は『BJC2018』に準優勝し、『リード日本選手権』では優勝したが、今年の『BJC2019』は準決勝敗退の7位。今大会が2位のため、順位だけを見れば好不調の波が大きいように映るが、森が昨年から「将来に向けた大きなテーマ」に取り組む一環として見れば、彼女が順調にステップを踏んでいることがわかる。

「去年1年間で、体重を8kg増やしました。今までは軽さで登っていたけれど、体重を増やしたことで一手一手のダメージは大きくて、腕がパンプするのは早くなったし、それまでスッと登れたものも以前よりしんどくなりました」

 森が体重を増やしたのは、今年から年齢制限をクリアして出場できるW杯シーズンや、その先を見据えているからだ。スポーツクライミングの国際連盟は、出場選手のBMI値を規制している。理由はファッションモデルのBMI規制と同様に、極端な痩せすぎは健康を害することになりかねないからだ。

「野口さんたちのトップクライマーが、こんなに負荷のかかった状態で登っていたんだなと思うと、そのすごさが前よりもわかるようになりました」

 それでも「以前の体重に戻したいとは思わない」という森は、進化に手応えを感じていると明かす。

「今は体重を増やす前よりも、もっと強くなれる可能性を感じています。パワーアップもしているので、今はとにかくもっと登りこんで、この身体の感じに慣れたいと思っています」

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