「笑顔で登る女」野中生萌のクライミングは、
みんなをハッピーにする (3ページ目)
それぞれのコーチが野中との関係性だけで終わるのではなく、小田と伊東は主要大会などで顔を合わせれば、野中について話し合う。コーチ同士が情報や意見を共有していることも、野中の成長の後押しにつながっている。
ときに、そうした周囲からのサポートが選手に重くのしかかることもあるが、野中はそれをキッパリと否定する。
「プレッシャーは感じないですね。むしろ、私をサポートしたいと多くの方に思ってもらい、実際に支えてもらっている。感謝しかないです。そういう人たちに成績を残して、恩を返したいという気持ちが強くなりました」
野中を支える人が年々増える理由だと感じられたシーンが、今回のボルダリングW杯決勝戦の最終課題にあった。1アテンプト(トライ)差で追う野中が完登すれば逆転優勝の芽も出てくる状況で、先にステージに現れた野中は1度目のトライでTOPホールドをとらえると、満面の笑みを浮かべながら全身で喜びを爆発させた。
ここにこそ、彼女の魅力があふれていた。彼女のパフォーマンスは勝ち負けを超越し、ただ目の前にある1本の課題を登りたいという、クライマーならではの本懐しか感じられなかった。そして、それを成し遂げたときの喜びを素直に表現できるからこそ、彼女に多くの人が魅了されていくのだろう。
ボルダリングW杯八王子大会の決勝戦では、各選手からの直筆メッセージが課題の横に映し出されていたが、野中のそれは『私もハッピー、皆もハッピー』。これからも野中は、クライミングで多くの人々を笑顔に変えていくはずだ。
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