検索

「笑顔で登る女」野中生萌のクライミングは、
みんなをハッピーにする (3ページ目)

  • 津金壱郎●取材・文 text by Tsugane Ichiro
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 それぞれのコーチが野中との関係性だけで終わるのではなく、小田と伊東は主要大会などで顔を合わせれば、野中について話し合う。コーチ同士が情報や意見を共有していることも、野中の成長の後押しにつながっている。

 ときに、そうした周囲からのサポートが選手に重くのしかかることもあるが、野中はそれをキッパリと否定する。

「プレッシャーは感じないですね。むしろ、私をサポートしたいと多くの方に思ってもらい、実際に支えてもらっている。感謝しかないです。そういう人たちに成績を残して、恩を返したいという気持ちが強くなりました」

 野中を支える人が年々増える理由だと感じられたシーンが、今回のボルダリングW杯決勝戦の最終課題にあった。1アテンプト(トライ)差で追う野中が完登すれば逆転優勝の芽も出てくる状況で、先にステージに現れた野中は1度目のトライでTOPホールドをとらえると、満面の笑みを浮かべながら全身で喜びを爆発させた。

 ここにこそ、彼女の魅力があふれていた。彼女のパフォーマンスは勝ち負けを超越し、ただ目の前にある1本の課題を登りたいという、クライマーならではの本懐しか感じられなかった。そして、それを成し遂げたときの喜びを素直に表現できるからこそ、彼女に多くの人が魅了されていくのだろう。

 ボルダリングW杯八王子大会の決勝戦では、各選手からの直筆メッセージが課題の横に映し出されていたが、野中のそれは『私もハッピー、皆もハッピー』。これからも野中は、クライミングで多くの人々を笑顔に変えていくはずだ。

◆ボルダリングだけでは東京五輪で勝てない。「リード」ってなんぞや?>>>

◆反重力か。ボルダリングJCで14歳・森秋彩のムーブに観客が大熱狂>>>

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る