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【月刊・白鵬】2年のブランクを経て復帰した、ある力士への思い (3ページ目)

  • 武田葉月●文 text&photo by Takeda Hazuki

 蒼国来とは、4月下旬の力士会の場で2年ぶりに顔を合わせました。さまざまな思いを秘め、私のところに挨拶に来てくれた彼の姿を見て、率直に「この2年間、よく耐えたなぁ」と感心させられました。何人かの力士がこの事件を機に角界を去り、私も心を痛めましたが、ほとんど例のない「解雇からの復帰」を一心に信じていた蒼国来の気持ちの強さは、本当に一筋縄ではなかったと思います。

 翌日行なわれた横綱審議委員会稽古総見の土俵では、復帰の祝いを込めて、私自ら蒼国来に胸を出そうと思いました。まわし姿、そして力士との稽古自体が久しぶりの蒼国来は、以前のような力士本来の筋肉が備わっているかと言うと、正直、ブランクを感じさせる部分もありました。でも、あえて私は、普通なら(幕内下位なので)稽古相手に指名しない彼を土俵に引き揚げました。

 もちろん、当たりの強さなどはまだまだでしたが、会場に詰め掛けた5000人のファンの前で稽古をつけることは、私たち力士も彼の復帰を認めた証になります。それだけに、ことさら厳しいぶつかり稽古も敢行しました。最後は、息も絶え絶えとなってしまった蒼国来。ある意味、手荒いやり方に映ったかもしれませんが、私なりの「歓迎」の気持ちを示したつもりです。

 これからの道は険しいものになるかもしれないけれど、ここまで耐えたのだから、「死んでもいい」くらいの覚悟で稽古をして、名古屋場所に挑んでほしいものです。万全の準備を整えるためなら、私はいつでも胸を出しますよ。

著者プロフィール

  • 白鵬 翔

    白鵬 翔 (はくほう・しょう)

    1985年3月11日生まれ。モンゴル・ウランバトール出身。本名:ムンフバト・ダヴァジャルガル。宮城野部屋所属。2001年3月場所の初土俵から順調に昇進し、2007年7月場所で横綱昇進を果たす。以来、安定した相撲で勝ち星を重ね、数々の記録も打ち立ててきた

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