【ミラノオリンピック】アリサ・リュウはメダルより「自分の演技」を大切にした金メダリスト (2ページ目)
【天才はもっと自由になった】
昨年12月、名古屋で開催されたGPファイナルのあと、優勝したリュウは啓示的なことを語っていた。
「勝つためだけに何かをするということを私はしません。でも、私はリスキーなことが大好きで、リスクがあるからこそやりたいんです。たとえばトリプルアクセルが好きだし、もしショート、フリーのプログラムに入れたら、どんな演技になるんだろうって考えるだけでもワクワクします。
私自身の好奇心を満足させたいし、大勢のファンが入っている会場の競技大会で、トリプルアクセルをやったんだという気持ちも味わってみたい。自分の演技を見せたいのです。うまくいくかどうかわからないけど、それが"完璧なショー"だと思うんです」
ミラノ五輪で、リュウはトリプルアクセルを跳ばなかった。しかし、勝負を天秤にかけたわけではない。完璧なショーを目指した結果だ。
好奇心を満たす。そのスタンスを徹底していた。多くの人にとっては異色というか、規格外だろう。
かつてリュウは「天才少女」と言われ、13歳にして全米女王に輝いている。ジュニア時代にトリプルアクセルや4回転ルッツにも成功し、旋風を巻き起こした。2022年に北京五輪を戦って、世界選手権では16歳という若さで3位になった。しかし直後、「目標が達成できました」とあっさりと一度目の引退を発表した。
それは競技者として結果だけを追求するスケートとの決別だったのかも知れない。復帰した昨シーズン、いきなり世界選手権で優勝したが、天才はもっと自由になっていた。得点源になるジャンプに挑戦するよりも、スケーティングの表現力で、勝手に順位が上がっている。競技者よりも表現者に近くなった。
「初めてのオリンピックでメダルを獲れるなんて、すごいじゃない!」
リュウは銅メダルが確定した中井を労い、自分のことのように喜んでいた。達観しているが、結果を出すのが簡単でもないことも承知しているのだろう。モニターには、リュウが涙する中井をぎゅっと抱きしめる映像がしばらく映っていた。彼女は金メダリストでなかったとしても、同じことをしただろう。
ミックスゾーンのリュウは、ブラックとゴールドの髪の毛を揺らして話していた。それはひとつの生きもので虎のようでも、法輪や光輪のようでもあった。彼女の愛するフィギュアスケートを護(まも)っているような錯覚を受けた。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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