「父の上に行けるように」フィギュアスケート界の"サラブレッド"小塚崇彦が五輪の舞台に立つまで (3ページ目)
【滑り込みで手にした五輪代表】
そのGPファイナルSPは、「足が震えるくらい緊張した」と言うが、「ジャンプを跳んだら気持ちがラクになった」と、自己ベストの83.90点を出す。2位に5点以上の差をつけて首位発進した。
「演技が進むにつれてだんだん気持ちが落ちつき、後半の2種類のステップも今まで以上に踏めたのではないかと思います。自分の演技をできた人が1位になると思うので、また新しい気持ちで(フリーで)自分の演技に集中していきたいです」
こう話して臨んだフリーは最終滑走だった。最初の4回転トーループは回転不足ながら着氷し、次のトリプルアクセル+3回転トーループもきれいに決めて流れに乗った。だが、終盤になって3回転ループとトリプルアクセルを続けて転倒。苦笑いを浮かべての演技終了後となった。合計は224.63点。ジェレミー・アボット(アメリカ)に次ぐ2位に終わった。
「4回転をこらえられたことでプレッシャーが出てきて、いつもはやっていないことをやり始めるような迷いもありました。1位になれなくて悔しいというよりも、今までできていた後半のジャンプでミスをしてしまったのが残念でした」
初のGPファイナルは勝つことの難しさを味わう大会になった。以降も、全日本選手権は織田に次ぐ2位。四大陸選手権では3位に終わった。ただその時の演技後には、「シーズンが始まってから一番やせている状態。この大会に向けて急ピッチで仕上げてきましたが、アメリカ大会の頃の身体に戻ってきて、いい感じで世界選手権に臨めそうです」と明るい表情を見せていた。
その世界選手権は翌2010年のバンクーバー五輪出場枠がかかる、日本勢にとっても重要な大会。小塚のSPは、3回転+3回転とトリプルアクセルを確実に決める滑り出し。最後の3回転フリップは軸が傾いてGOE(出来ばえ点)加点は0点だったものの、大きなミスはなく滑りきった。しかし、演技構成点が伸びず、79・35点の5位の滑り出しになってしまった。
それでも、点差はわずかで上位を伺うチャンスはあった。そうしたなか、小塚はフリーで4回転ジャンプを控えて安全策を選択した。というのも、日本勢は他に無良崇人がSP13位、織田が同7位。「3枠」の五輪出場枠獲得がぎりぎりの状態にあって、これまでにないプレッシャーがかかるなか、小塚はその最低限の仕事を優先したのだ。
織田が7位以内を確定させた状況で迎えた小塚のフリー。冒頭の4回転トーループをダブルアクセルに変更する構成だったが、2本目の連続ジャンプでトリプルアクセルが両足着氷になってしまい、3回転トーループをつけられないスタート。後半の5本のジャンプも細かいミスでGOEは2本が減点され、他は0点という評価となった。
決して満足できる演技ではなかったが、小塚は最後まで粘りの滑りを見せて合計222.18点。総合6位となって、五輪出場3枠をギリギリで確保した。その結果に小塚は安堵の表情は見せたが、悔しさもあった。
「今回はきれいな着氷がなかったので何とも言えませんが、何とか転倒せずに済んだ。去年はふらついていたり転倒したりしたけれど、そこは成長したと思います。最終グループは逃げたい気分になりましたが、それを乗り越えた時には本当にすごい演技ができるのかなと、今回実感できました」
苦しい戦いのなかで、小塚は挑む壁をハッキリ意識した。
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