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「リンクに立っていていいのか...」安藤美姫が苦境を乗り越え五輪で見せた心の成長「感謝の気持ちをこめて」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【大舞台で自己ベスト、実感した成長】

 2度目の五輪シーズンとなった2009−2010年、回転不足やエッジエラーの判定が厳しくなり全体的に得点が抑えられる傾向も見えるなか、GPシリーズを2勝してGPファイナルはキムに次ぐ2位となり、バンクーバー五輪代表を内定させるシーズン前半戦とした。

 トリノ五輪の時に荒川静香から「1度目の五輪は楽しかったけど、メダルを狙う今回は違う」と聞いたという安藤の2度目の五輪。2010年2月23日のSPは最終滑走で、キムが自己ベストの78.50点を出してトップに立ち、浅田が73.78点で2位につける状況での滑りだった。

 安藤は、最初の3回転ルッツ+3回転ループのセカンドが回転不足になる滑り出しとなったが、その後は流れが途絶えない情熱的な演技を見せた。

「最終滑走で緊張したし、3回転+2回転ならダウングレードにならずに得点ももっと伸びたと思いますが、安全策を取らずやると決めて3回転+3回転にトライできたのでスッキリしています」

 その結果は64.71点で4位発進。3位のジョアニー・ロシェット(カナダ)に6.60点差と、少し厳しめのスタートになってしまった。

「ショートのあとは落ち込んだ」と言った安藤だが、2日後のフリーはベストを尽くそうという気持ちに切り替えられていた。不安のあったジャンプは抑える構成とし、安定感のあるノーミスの滑りを見せた。フリーの得点の124.10点はシーズン自己ベストだったが、合計は188.86点の総合5位という結果で2度目の五輪を終えた。

 それでも表情は穏やかだった。

「ショートのあとは自分に対して悔しかったけど、中1日あったので気持ちも整理できて、結果だけではなく、皆さんに対して感謝の気持ちをこめて演技するのが自分だなと思えたのはよかったです。4年前(のトリノ五輪)は失敗ばかりしていて自己満足だけで終わっていたと思いますが、今回は自分なりに成長した演技はできたかなと思います」

 プレッシャーや不安との戦いだったトリノ五輪のあと、ケガや調子の波の大きさに苦しむ時期もあり、「自分がリンクに立っていていいのか」と悩んだこともあったという。だが、それを乗り越えたからこそ得られた心の成長を、彼女はバンクーバーの大舞台で見せてくれたのだ。

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