検索

【フィギュア】落ち込んだ鍵山優真を励まさなかったカロリーナ・コストナー「失望の時間のあとに学びの時間が来る」背景に自身の苦悩 (2ページ目)

  • 野口美恵●取材・文 text by Noguchi Yoshie

【励ましの言葉をかけなかったワケ】

ーー世界選手権は、ショートプログラムで今季自己ベスト(107.09点)を出しながら、フリーはミスがありました。試合全体を振り返っていかがでしょう?

 優真はフリー後、落ち込んでいました。でも一歩引いて見れば、ショートですばらしい演技をして、金メダル争いに持ち込み、そして表彰台に乗った。しかも日本に五輪3枠を持ち帰ることができた。彼の全日本王者としての役割はきちんと果たしています。彼のことを責める理由がありません。私からかける言葉は「よくやった」という言葉だけです。

ーーコストナーさんは、現役最後の演技となった2018年世界選手権(イタリア・ミラノ)で、ショートは首位ながら総合4位になりました。あらためてフィギュアスケートの難しさを感じた体験だったと思いますが、今回そういった経験を鍵山選手に伝えたりしましたか?

 今回、フリーの日の夜に私が彼に伝えたのは、「こういった(悔しい演技をする)経験をした時に、誰かに言葉をかけられても、それで自分の気持ちがラクになったことはなかった」ということです。あのミラノの日、どんな言葉も、どんな人も、私の気持ちをラクにしてくれませんでした。なぜなら私は失望しているし、ハッピーではなかった。その感情は消えることはありません。だから、私も優真に、励ますような言葉はかけませんでした。前に進むには、失望し、いら立ち、そのあとに何が間違っていたかを本人が見つけるしかないのです。

ーーあれだけすばらしいショートを演じたあと、フリーでミスが出るというのは、鍵山選手に何か精神的な変化があったと思いますか?

 何が原因か、今はわかりませんが、たぶんとても小さなことだと思います。ボストンに滞在した1週間というのは、非常に長く感じる時間でした。刻一刻と、精神的に影響があることが起きました。ショートで、イリア・マリニン(アメリカ)のパーフェクトな演技の直後に、あれだけの演技をできたということは、プレッシャーに対応できたということ。彼が非常に強い精神力を持っていることを示しました。その達成感のあと、フリーまでの間に、急に自信をなくすような出来事はありませんでした。ただ、私は優真がとても強いスケーターだと心から思っていますし、全日本王者としての覚悟も感じています。それは間違いないです。

ーー全日本王者となったことで、覚悟が変わったなと感じるということですね。

 ええ。彼は全日本王者になったことをとても誇りに思っていますし、それが悪い重圧になることはありえません。彼にとって大きな意味があるタイトルでした。それは、父の正和コーチとともに親子で全日本王者になること。彼は私にこう言いました。「僕の目標は、父よりも多くの回数、全日本王者になることです」と。だから優真が、王者になったことを誇りに思っていることは間違いないです。年明け以降に調子が上がらなかったことは、王者になったことが原因ではないと考えています。単に、試合とは難しいもの、ということです。

2 / 4

キーワード

このページのトップに戻る