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「試合は熊に追いかけられるような恐怖...」大躍進中のベテランスケーター、アンバー・グレンが明かすADHDとの闘い (2ページ目)

  • 野口美恵●取材・文 text by Noguchi Yoshie

【新たな治療法で脅迫概念から解放】

ーー特に今シーズンの躍進につながったのは、どんな治療だったのでしょう。

 今年から取り組んでいる「ニューロセラピー」が、私のマインドセットを大きく変化させてくれました。実は去年のシーズン前半は好調だったのですが、9月頃にひどい脳震とうを起こし、心と体がバラバラになってコントロールできなくなってしまったんです。世界選手権後にスポーツ心理学者から勧められて始めました。

ーーニューロセラピーとは?

 まず脳波を調べます。目を開けている時と閉じている時で、どの脳波が活性化しているか、正常なレベルはどのくらいか、心拍数なども調べます。私の場合、ストレスの多い状況にいると、まるでジェットコースターに乗っているみたいに心臓が急発進するのです。特に目を閉じると、身体が叫んでいるみたいになり、何もしていないのに疲れ果ててしまう。まずは自分のストレスの状態を知り、脳波を自分で調整できるようにトレーニングしていくのです。

ーー瞑想やメンタルコントロールに似たようなものですか?

 ニューロセラピーは瞑想に似たものなのですが、脳波を計測しながら、科学的な根拠に基づいて指導してもらうことで、確証を得ながらトレーニングしていくことができます。以前はスケートの試合に出るだけなのに、すごい恐怖に襲われ、熊に追いかけられているような気分になっていました。セラピーのトレーニングをしたことで、脳をリセットできるようになり、「戦う」「逃げる」といった強迫観念から解放されるようになりました。

ーートリプルアクセルの成功率が上がったのも、セラピーの効果でしょうか。

 神経療法と理学療法の2つがあると思います。セラピーのおかげで、アドレナリンが出て暴れまわるのではなく、アドレナリンが出ても呼吸を整え、自分の心と身体がつながっている状態にすることができています。また、以前は膝に痛みがあったのですが、理学療法によってトレーニングできていて、そのためにアクセルの技術が安定しました。

ーー自分の状況をとても客観的に語れるということが、すばらしいと思います。

 こうやってADHDのことや、それにどう対処しているかを話せること自体が、私にとってはうれしいことです。

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