小説『アイスリンクの導き』第13話 「抽選会」 (3ページ目)

 翔平が困っていたら、「そろそろ始めます!」と壇上に立った係員の人が合図したので、「みんな、よろしくね!」と翔平の方から挨拶することで終了し、一旦、席についてもらった。
 
「やっぱり、翔平君は人気だね」

 陸がうれしそうに言う。

「復帰した選手が珍しいだけだろ。でもさ、もっと自分のような選手が他にも出てきたらいいと思うよ。スケートは大学まで、なんて固定観念を覆せたらいい。こうでなければならない、とか、これ以外は無理、とか。だって、フィギュアはもっと自由で、可能性は無限にあるものだろ?」

「そのとおり」

 陸が同意した。

「僕もそう思います!」

 宇良が続いた。

「ちょっと、君は翔平君となれなれしすぎるよ」

 陸が注意した。

「すいません。でも、ぼく、陸さんの演技も大好きです」

「ふーん、まあ、目の付け所がいいじゃん」

 陸はまんざらでもなさそうだ。

「チョクトウのステップだけで、格好いいなって。ブラケット、ツイズル、カウンター、ターンも最高です」

「スケートのうまさ、知ってるね。僕の次の"翔平君親衛隊員"に任命してあげよう」

「陸、変な話を勝手に進めるなよ」

 翔平はそう言いながら笑った。

 会場では女子シングルの後、男子シングルの順番が発表されることになった。ほとんどのスケーターは第1グループ、中でも1番滑走は望まない。

「宇良悟さん、1番」

 1番手に箱からくじを引いた宇良は、壇上の係員にいきなり1番滑走を告げられた。小さなどよめきが上がる。多くの選手は安堵のため息だろう。

「ハイ!」

 宇良は返事などしなくてもよいのに、元気よく答えた。隣に座っていた陸が、戻ってきた宇良に声を掛けた。

「変なの、うれしそうじゃん」

「うれしいですよ、1番なら誰かと比較されずに精一杯、滑ればいいじゃないですか」

「でも、ひどい失敗で、みんなに追い越されて、フリーに上がれず足切りかもよ、最下位だってあるし」

 陸はそう言って脅した。
 
「おい、陸。前途ある高校生を怖がらせるな」

 翔平が諭した。

「はーい」

「大丈夫ですよ、僕は全日本という舞台を楽しむだけです。こんなに大きな舞台で自分の演技を観てもらえるんですから。精一杯、練習を積んできたんで、ばあちゃん風に言うなら、あとは野となれ山となれ、ですよ」

 宇良はそう言って笑った。

「そうだな。みんなで自己ベストを出せるように、この舞台を楽しもう」

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