宇野昌磨「ここで不甲斐ない演技してしまうとよくないな」試合全体を「最高」にするため難易度を下げた構成を選んだ (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【羽生結弦に続くモチベーション】

 北京五輪シーズンが終わってから、宇野には迷いが生まれた。それまで目標にしていた羽生結弦やネイサン・チェン(アメリカ)が競技の場からいなくなり、モチベーションが下がっていた。そんななか、4回転ジャンプ5本を入れた構成に挑戦したり、その後は4回転を抑えて表現への意識を高めたりしていた。そして、今季もGPシリーズを戦うなか、考えは揺れていた。

 それが今、マリニンやアダム・シャオ イム ファ(フランス)の急成長と、北京五輪をともに戦った鍵山がケガから復帰してきたなかで、戦う喜びを感じるようになった。

 振り返ってみれば羽生も五輪連覇を果たした2018年平昌五輪のあとはモチベーションの維持に苦労し、さまざまな迷いのなかで競技を続けていた。トップを極めた選手だからこそ、年齢とともに体が変化し始めてくる状況で、競技を続ける意味や自分にとってフィギュアスケートとは何か、などと考えてしまうのだろう。

 トップ選手の通る道なのかもしれない。とくに宇野は、平昌五輪後には自立を考えてどん底まで落ち込んだ経験もある。

「僕はたぶん、他の選手たちよりも、スケートがすごく好きではないんです。本当にスポーツとしてやってきて。スケートだからっていうのではなくて、一生懸命小さい頃からやっていることだから。性格上、やるって決めるとたぶん他の人よりも真剣にやってしまうというところもあるので、こういうところまで来られたんだと思います」

 GPファイナルの時にこう口にしていた宇野。迷いもあるからこそ、見ている側には魅力的にも映る。

 世界選手権へ向け、4回転ジャンプを増やすことについてこう語った。

「僕は競技人生に悔いを残したくないというのが一番先にあります。マリニンくんと戦うためにジャンプを増やしたい気持ちは山々だけど、表現をおろそかにしてまでジャンプをやってしまうと、昨年までと同じになってしまう。自分が悔いのない演技ができるところまで表現力をつけたうえで、余裕があれば4回転を増やす可能性もあるにはあるけど、本当にそれぐらいをしなければマリニンくんと戦うことが難しい。彼は僕よりも高難度の構成で安定感がとてつもなく高いので、彼に勝つのは本当にすごく難しいことだとは思うけど、世界選手権に向けては自分の最高のものを出せる調整をできたらなと思っていますし、そのなかでジャンプを限界まで挑戦するっていうのも、もちろん視野に入れて練習していこうかなとも考えています」

 世界選手権へ、そして、その先へ向けて宇野がどういうフィギュアスケートをつくり上げていくのか。さまざまな迷いからどういう選択をするのか。楽しみだ。

プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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