宇野昌磨の基本は他者との競争よりも自分との対峙 数字や記録に「思い入れはない」 (3ページ目)
【「完璧を求めすぎるな」師匠の言葉】
宇野は練習を積むことで、もっと技を深めたい、と自ら突き動かされる。その衝動は極めて強い。それが単純に試合で強さとして出るわけだが、自らを追い込んでしまう諸刃の剣で、そこに指導者が必要なのだろう。
「完璧を求めすぎるな。一つひとつをやった先に、それは待っている。完璧そのものを目指すものではない」
昨シーズン、ランビエルコーチからもそうたしなめられていた。
NHK杯で宇野は過去3戦全勝と相性がいい。GP通算での10勝にも王手。連覇がかかるGPファイナル出場にもつながる。
「10勝に思い入れはないですが、皆さんに期待してもらえるようなら、全力を尽くしたいです」
宇野は彼らしく超然と言った。
「中国杯から、そんなに期間はなかったんですが、ステファンに日本へ早く入っていただいて一緒にコレオを練習したり、ジャンプは自分でやったりしてきました。とくに何をしたっていうことではないですが、プログラム全体を練習してきました。やってきたことを出しきりたいです」
淡々と言ったが、やはり自分との対峙に基本がある。メディアがつくった記録に興味はない。表現を深めるため、数字の枠に収められたくないのもあるはずだ。
今年の夏、宇野はアイスショー『ワンピース・オン・アイス』で主人公のモンキー・D・ルフィ役を好演した。表現者として、ひとつの殻を破ったと言える。表情や動きがより豊かになって、人を引き込む力も強くなった。
「表現」
それは数値化できず、自分をもの差しにするしかないのだ。
11月24日、男子シングル。ショートプログラムで宇野は映画曲『Everything Everywhere All at Once』で大トリの演技となる。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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