宇野昌磨の基本は他者との競争よりも自分との対峙 数字や記録に「思い入れはない」 (2ページ目)
【勝負強さは運がいいだけ】
昨シーズンのNHK杯でも、現地に入って一度も飛べなかった4回転フリップを本番で成功させたことがあった。それは本人曰く「スケート人生で長くフリップを練習してきた賜物」だった。仮説、検証、改善を長年繰り返し、フィギュアスケーターとして極まりつつあるのだ。
この日も、宇野はGPシリーズ・中国杯(279.98点で2位)で苦戦した4回転フリップ、4回転ループで試行錯誤を重ねている。成功も失敗もあったが、そのたび、リンクサイドにいるステファン・ランビエルコーチと言葉を交わし、動画で確認しながら改善をほどこしていた。それは絵画に手を入れるようでも、科学的な研究のようでもあった。
フリー『Timelapse / Spiegel im Spiegel』の曲かけ練習、冒頭の4回転ループは惜しくも崩れている。しかし、4回転フリップはみごとに着氷した。改善の跡があった。
続くトリプルアクセル+ダブルアクセルのコンビネーションは、軽々と成功させている。3回転ループはやや苦しかったが、4回転トーループは出色、4回転トーループ+3回転トーループの連続ジャンプはGOE(出来ばえ点)も期待できる大技だった。最後のトリプルアクセルの転倒は、"弘法も筆の誤り"と言ったところか。
その後、宇野は失敗したジャンプを中心に修正を加えていた。一つひとつの練習が本番につながっていたし、本番は練習につながっている。そこに切れ目がないのが、いざ試合で背水の陣から逆転できる理由だろう。
もっとも、彼自身は偶然的、非論理的なことは好まない。
「僕はフワッとしたのはあまり好きではなくて。たとえば、勝負強さって運がいいだけにも思えるんです。メンタルはすごいけど、自分にとっていいことではない。基本は練習してきたことが試合に出るべきで。試合ごとに課題を見つけ、次の試合に活かせるか」
それが彼の持論であり、NHK杯を前にしても変わっていなかった。
「今日までの練習は、すごくやりがいを持ってできていました。モチベーションがどうってわからないです。でも、練習でやってきたことを試合でどう表わすのか、っていうのが自分は興味があるので」
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