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宮原知子が子どもたちにスケート指南 目を輝かせる少女に見た原点と未来 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【過去、現在、未来を結ぶ】

 体験会で宮原は参加した子どもたちに、できる限り声をかけていた。うまくできると、胸元で小さな拍手を鳴らした。「見ているよ」。そう伝えることで、もっと見てもらおう、という向上心にもつながる。

 彼女自身、それを積み重ねて世界的なスケーターになったのだろう。

 今回のNHK杯で宮原はアンバサダーを務める。過去6度もNHK杯に出場した宮原は、2015−2016シーズンには優勝も飾っている。縁が深い大会と言えるだろう。

 生涯で会心の試合は? と聞いた時、返ってきた答えは意外だった。

「なかなかひとつにしぼれないですけど、平昌五輪後の次のシーズン、NHK杯ですね。2位だったんですけど。オリンピックの後だから気が抜けるという演技をしたくはないと挑んだシーズンだったので、そこでいい練習ができてしっかりメダルをとれたのは、自分がつかんだ勝利だなって思えます」

 彼女は常に自分と向き合うタイプのスケーターだった。克己心というのか。タイトルよりも、自分に勝ったことに幸せを感じた。

<スケートを好きになるか>

 それがひとつ目の大きな分岐点になるのだろう。

 体験会の最後、宮原は子どもたちと保護者たちに優雅なスパイラルを実演している。

 一角で、歓声が上がる。氷に座ったまま見ていたひとりの女の子は、その目を輝かせていた。小さな手で必死に拍手を送った。

「短い時間でしたが、みんなの一生懸命な姿に元気をもらいました。この体験で、次の機会もつくってもらえたらうれしいです。いつでもまた、リンクに来てください!」

 宮原はそうメッセージを伝えている。子どもたちは、氷上で新しい遊びを見つけたようにも見えた。彼女はスケートの過去、現在、そして未来を結びつけたのかーー。

 11月24日、同じリンクでNHK杯が幕を開ける。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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