イリア・マリニンが羽生結弦やネイサン・チェン、宇野昌磨の得点を超える可能性は? (2ページ目)
【羽生結弦やネイサン・チェン、宇野昌磨を超える可能性】
だが、歴代2位の羽生結弦の322.59点や、歴代3位の宇野の312.48点と比べると、まだGOE加点の面で劣っているのは事実だ。
今回、マリニンのフリーの技術点は技術基礎点に19.65点上乗せしているが、羽生が2019年のスケートカナダで322.59点を出した時は、冒頭の4回転ループで0.15点減点されながらも、プラス23.61点だった。
また、2022年の世界選手権で312.48点を出した時の宇野も、後半の4回転トーループのアンダーローテーションの減点や、3連続ジャンプのサードの1回転、4回転+3回転が4回転+2回転になってGOE加点を伸ばせない要素がありながらもプラス21.25点と、得点を着実に積み上げていた。
また、歴代5位の310.05点が自己最高得点の鍵山優真(オリエンタルバイオ/中京大)も、現在はケガがあって4回転の本数を抑えているが、パーソナルベストを出した北京五輪では4回転ループの4.65点の減点がありながらも技術基礎点プラス19.64点。GOE加点は3〜5点を並べられる技術の高さが彼の持ち味で、完調になれば当然、宇野やマリニンと競り合うところまで得点を伸ばしてくるはずだ。
羽生や、2019年GPファイナルで世界最高の335.30点を出したネイサン・チェン(アメリカ)はまだワンランク上と言えるが、マリニンは18歳。まだこれから成長していく年齢だ。
GOE加点を伸ばし、完璧に跳べる4回転ジャンプをさらに増やすことが羽生やチェンの得点に近づくことになる。そのためには、体力と集中力を持続させる精神面の向上も必要になってくるが、それもこれから着実に進化させてくるはずだ。
全種類の4回転ジャンプを跳ぶ能力を持つマリニンが、どこまで伸びていくか。彼の成長が、宇野をはじめとするライバルたちを刺激し、彼らの進化も促すことになるはずだ。
今回のマリニンの高得点は、羽生とチェンが生み出したふたりの超ハイレベルな戦いを、もっと多くのスケーターが繰り広げるという期待を抱かせる、大きな一歩となった。
著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。
フォトギャラリーを見る
2 / 2