14歳の島田麻央が見せたポテンシャルの高さ。大技に頼らない精神力と技術の確かさで世界ジュニア制覇に挑む (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【全日本で見せた精神力と確かな技術】

 それから中1週で臨んだ12月22〜24日の全日本選手権は時差もあって万全ではなかったのか、SPではトリプルアクセルは回避する構成にした。

 それでも、最初のジャンプはジュニアGPファイナルまでの3回転ループではなく、基礎点が0.40点高くなる3回転フリップに変更。ジャンプとともにスピンとステップもすべてレベル4にする完璧な滑りで70.28点を獲得。同じジュニア組の千葉百音(17歳、東北高)には0.78点及ばなかったが、4位の好発進となった。

「ジュニアGPファイナルより緊張していて最初は足に力が入らなくなっていましたが、滑り出したら足が動くようになりました。スピードもあまり出せなくて最後のポーズをするまで緊張していたが、そのなかではまとまったと思います。

 シニア選手との大会は楽しみな部分もあったが、レベルが違いすぎるので不安もあった。でも、大きな舞台で70点台を出せたことは自信になると思います」

 しかしフリーへ向けた公式練習では、4回転トーループは苦戦していた。万全な調子ではないなかで高さを出したいという思いか、跳ぶ直前に後ろに引いた腰を少し固定させてから跳び上がっているように見えた。

 島田はそれでも「今シーズンは絶対にトリプルアクセルと4回転トーループを入れた構成に挑戦しようと決めていたので、何の迷いもなく跳ぼうと思いました」と挑戦した。

 最終グループでの演技となったフリーは、公式練習で跳べていたトリプルアクセルに続き、次の4回転トーループも回転不足で転倒するスタートになった。だが、他のジャンプをすべてしっかり決めて132.51点。合計は国内では自身初の200点台の202.79点。トリプルアクセルを2本決めた同い年の中井亜美(MFアカデミー)の追撃も1.30点抑えて3位に入った。

「最終グループに入って、選手紹介で名前を呼ばれた時はうれしかったけど、すごく緊張したし、表彰台もちょっと意識してしまいました。これまでで一番緊張した、というくらいだったから、力が入っていつものタイミングで跳べなかったのが失敗の原因だと思います。

 でも、最初のふたつのジャンプは降りても降りられなくてもないものだと切り替えて、2本失敗しても他のジャンプを失敗しなかったことは、これからの自信になりました」

 高難度ジャンプを成功した選手たちは、他のジャンプでミスをして得点を伸ばせないケースが多かった。一方、トリプルアクセルを2本とも成功して気持ちも乗り、そのあとのジャンプも完璧にこなした中井のように、うまくいけばより乗っていけるのがフィギュアスケートの演技だ。その点で島田は、失敗後にノーミスで滑れたことが、ポテンシャルの高さを証明していると言っていい。

 やると決めたら挑戦しきる心の強さと、大技だけには頼らない技術の確かさを見せてくれた島田。シニア移行は2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪翌シーズンからになるが、強さを見せつけることで間接的に五輪を狙うシニア選手への強力な刺激剤にもなるはずだ。島田のこれからの進化は、日本女子フィギュアスケートの底力アップへ大きな原動力になる。

 島田は2023年2月開幕の世界ジュニア選手権(カルガリー)に出場予定。日本女子史上最年少の14歳4カ月での大会制覇を目指す。

【プロフィール】
島田麻央 しまだ・まお 
2008年、東京都生まれ。5歳からフィギュアスケートを始め、全日本ノービス選手権では2019年にBクラス、2020、2021年にAクラスで優勝。同年、推薦出場した全日本ジュニア選手権を制覇。2022−2023シーズンにジュニアデビューし、GPジュニアシリーズで2連勝(チェコ大会、ポーランド大会)。全日本選手権ではジュニアながら3位に入った。名前の麻央は2010年バンクーバー五輪銀メダリストの浅田真央が由来。

【著者プロフィール】
折山淑美 おりやま・としみ 
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、これまでに夏季・冬季合わせて16回の大会をリポートした。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追っている。

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