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日本のアイスショーのパイオニアがプロ活動に終止符。「50歳になろうかという人間がコスチュームを着て人前で演技をするのはたやすいことではない」 (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha

【これ以上ないくらいの満足感】

 これだけ多彩なことを体験することができたのは、これからも続けていきたいと思っているアイスショーの振り付けや演出をするにあたって、自分の実になったんじゃないか。いろいろなところからアイデアが出てくるのは、自分のいままでの経験が実っていると感じることがすごく多いです」

 ではなぜ50歳を前にプロ活動に一区切りをつけることになったのか。

「指導する立場になってこのくらいの年齢になってくると、体を鍛えるとか練習するという、自分自身のスケートの時間を優先することができない生活になってきていました。その中で、たとえば毎年8月には『フレンズ・オン・アイス』に呼んでいただいていますが、その準備期間が非常に長くなってしまいました。

 フィギュアスケートは美というものを要求されるスポーツですが、鍛えあげられているピークのアスリートと一緒に舞台を踏むなか、50歳になろうかという人間がコスチュームを着て人前で演技をすることはそんなにたやすいことではないのです(苦笑)。自分なりにもちろん努力はしますけど、やはり年齢にはかなわないなと思います。そういう意味でも、きれいでいられるうちに自分で思い出になるパフォーマンスをして、区切りをつけたいなという気持ちがあったかなと思います。

 そして、ファンやお世話になった方たちにパフォーマンスでご挨拶することが、自分にとって理想的で大事なんじゃないかなと感じました。春にやる予定だった『スターズ・オン・アイス』が延期になって秋の開催になったことも、私にとって一番いいタイミングとなり、その舞台で最後のパフォーマンスを終えることができました」

 日本でプロスケーター活動の有終の美を飾った数日後、96年から拠点にしているアメリカの自宅に戻って約1週間。有香さんにその時の思いを尋ねた。

「やはり人前で滑ることが好きで、音楽に合わせて滑ることも好きでした。45年ぐらいしてきたことに、今回、終止符を打つことで、(生活が)がらりと変わってしまうという恐怖心もあり、ロスを感じているというのが正直なところです。その一方で、みなさんにアナウンスして最後のショーを滑れたことはすごく自分でも納得いきましたし、これ以上ないというくらい満足感もあります。そして、今後の楽しみというか、また自分がどんなことにチャレンジしていけるかという期待感もあります」

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