無良崇人が語る戦友・羽生結弦。「そのプロ活動は現役選手の刺激にもなる」 (2ページ目)

  • 辛仁夏●文 text by Synn Yinha
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao / Fantasy on Ice 2022

アイスショーの思い出

 技術をより追求していくという気持ちは、決意表明会見での「プロアスリートになる」という言い方にも表れていると思います。7月の決意表明会見で彼の発言を聞いていましたが、「彼らしいな」ということに尽きると感じました。

 僕にとって印象的だったのは、「引退」という言葉を使いたくないと言っていたことです。引き下がるわけではなくて、プロとして活動する。競技者として試合に出ることはなくなるけれども、技術レベルや自分のモチベーションにおいては向上し続け、成長し続けるという言葉を口にしていたことでした。

 プロ転向した当時のことを思い出しました。僕の場合、アイスショーがもともと好きだったし、試合というよりも、ショーのなかでスケートに恩返しがしたいという気持ちがすごくあったので、レベルを維持するというよりも、自分が滑りたいスケートを滑るという考え方のほうが、どちらかというと大きかったと思います。

 僕のプロ転向時とは違って、羽生選手は今、競技会に出ても表彰台に上がれるレベルを維持し続けることができていると思います。勝てるなら競技会に出場し続ければいいわけですが、そこの線引きが彼らしさでもあると思います。

 羽生選手とは競技会やアイスショーで一緒になる機会が結構ありました。2011年、東日本大震災に遭った彼が、ホームリンクで練習できなくなり、いろいろな場所で練習することになって、環境も変わるなかでしんどい思いをしながらスケートをやっていた時期に、僕が「もしリンクがなかったら、(練習拠点の)岡山も使ってもいいよ」と、話したことがありました。その後、一緒に出演したアイスショーでよく話をするようになりました。

 2015年4月の世界国別対抗戦では一緒にチームジャパンとして試合に出たのですが、練習や試合のあとに、スケートのことについていろいろ話すタイミングがありました。

 当時、僕の4回転ジャンプは安定していなかったのですが、羽生選手は飛びぬけた技術レベルで試合に出ていました。彼が自分の動きなどを細かくチェックしながら考えて取り組んでいたことを知っていたので、「なんで俺、4回転サルコウが跳べないんだろうな」という話を投げかけたんです。そうしたら、「これってこういうことだから、無良くんの跳び方とは違って、僕が考えるのはこういうイメージで動いていて......」という説明を、紙に書いてくれながら、すごく細かく話してくれました。その時の彼の説明は、僕が発想もしていなかったことだったので「ああ、なるほどね」と、ヒントをもらったんです。

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