三原舞依「予定が詰まっているほうが元気でいられる」。唯一無二の演技へ連戦で誓う成長

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Kyodo News

近畿選手権に出場した三原舞依近畿選手権に出場した三原舞依この記事に関連する写真を見る 10月10日、尼崎。全日本選手権の予選となる近畿選手権で、三原舞依(シスメックス、23歳)は総合スコア、201.48点で優勝を飾っている。2位に50点近い大差をつけ、西日本選手権へ勝ち進んだ。

 もっとも、昨シーズンは全日本4位で、2度目の四大陸選手権女王にもなった実力の持ち主は、単純な成績以上のものに取り組んでいた。

「音楽に溶け込んだ演技を」

 そう語る三原は、彼女だけの世界を練り上げていたーー。

三原舞依としての色

 10月9日、リンクサイドの三原は、他のどの選手よりも全身を動かしていた。腰にもパーカーを巻きつけ、「寒がり」の対策だろう。6分間練習は口を一文字に結び、リンクに入った。8月に開かれた前哨戦の「げんさんサマーカップ」で課題にした3回転フリップなど、ジャンプの感触をじっくりと確かめた。ショートプログラム(SP)の滑走順は1番手。残り数秒、意を決したように上着を脱いだ。

 あらわになった衣装は、シルバーのドレスにシルバーのストーンが編み込まれ、白く輝く精霊のように映った。無観客試合が持つ独特の静けさは、満員の会場とは別の種類の緊張を生み出すが、彼女は解き放たれていた。

「今日はいつも以上に早く過ぎる感じで、それだけひとつひとつに集中できてました」

 そう語った三原は、坂本龍一の『戦場のメリークリスマス』が会場に流れると、狂気、倒錯、愛情の旋律に没入した。ピアノの音を丁寧にひとつひとつ拾い、安定した滑りで、呼吸の律動に乱れがなかった。

「今年は体力をつけたいと思っていて。夏から走り込んだり、ジャンプの回数だったり、少しずつトレーニングを増やしてきました。"攻めて"いけるように心がけて」

 冒頭のダブルアクセルは流麗で、着氷後に足を高く上げた。柔らかい膝や体の反りを使って曲の躍動感を高め、3回転フリップもGOE(出来ばえ点)を稼ぎ出す。スピンは高速で鋭敏にレベル4を獲得。3回転ルッツ+3回転トーループは2本目にq(4分の1回転不足)がついたが、高難度で高得点をたたき出した。最後は激しく鍵盤をたたくテンポに合わせ、滑りに力強さが増し、指先まで熱を帯びていた。

「ピアノが流れた瞬間、スッて切り替わった感じで。(曲の)世界観に入れました」

 三原はノーミスの演技後に振り返った。

「意識をしなくても、音楽を聴いた時に、"こんな世界なのかな"とは考えています。私は、音楽を聴くのがすごく好きで。ひとつひとつの曲に想いが込められていると思うので、そこにある世界を大事にしながら、三原舞依としての色を出せるようにしたいです」

 人間の儚さと強さを同時に感じさせる曲を、表現者として演出した。スコアは71.84点。大差で首位に立った。

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