樋口新葉が取り戻した躍動感。
「強いワカバ」が帰ってくる

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

Never give up! 
日本フィギュアスケート2019-2020総集編(5)

 カナダのモントリオールで開催予定だった世界フィギュアスケート選手権が、新型コロナウイルスの影響で中止になり、2019-2020シーズンが終了。今季も氷上で熱戦を繰り広げた日本人スケーターたちの活躍を振り返る。

 昨シーズンはケガの影響もあり、不完全燃焼だった樋口新葉。今季はその悔しさを糧に大きな一歩を踏み出した。

全日本選手権の表彰式で笑顔を見せた樋口新葉全日本選手権の表彰式で笑顔を見せた樋口新葉「どうしても頑張りたい、と思って練習してきました」

 2019年12月、全日本選手権で2位になった樋口新葉(19歳)は、そう言って口元に力を込めた。気骨を感じさせるフリースケーティングだった。演技後、彼女は奮然と歯を食いしばり、ふたつの拳を握り、力こぶを作り、全身で喜びを表現した。

「2年間、表彰台に上がれず、悔しい思いをしてきました。世界選手権に行けず、ケガもあって。シーズン最初から全日本に照準を合わせてきて、よく頑張ることができたな、と思います」

そう語った樋口は、練習を積んでいたトリプルアクセルこそ回避したものの、後半の3回転フリップの着氷が乱れた以外、すべてのジャンプを成功させた。疾風を感じさせるような滑りで、勇ましさすら感じさせ、体全体で発する躍動感があった。シーズン最高スコア更新で138.51点を叩き出し、ショートプログラム(SP)の4位から2位へ躍進。世界選手権出場の切符を手にした。

「試合に自信を持って臨めるだけの練習をしてきました」

 取材エリアで答える樋口は、堂々とした様子だった。逆転で表彰台を勝ち取った高揚もあっただろう。しかしそれ以上に、競技者の献身と矜持があふれ出ていた。

 ジュニア時代、樋口は破竹の勢いだった。同年代には敵なし。14-15シーズンには、中学2年生にして全日本で3位。2004年の浅田真央以来の快挙だった。そして15-16シーズンには、中学3年生で全日本2位を勝ち取っている。

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