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真摯に、丁寧に。宮原知子は
「自分の世界をつくり出したい」 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「リー(・バーケル)先生には、『焦らないで』と言われます。本番で、タイミングが早くなったり、焦る癖があるので。練習では、(ジャンプは)量を跳ぶだけじゃなく、試合を意識して跳ぶようにと。大きく跳び方を変えた、というのはないんですけど......。ないんですけど、えっと、言葉難しいですね。跳び方は、変えていません!」

 宮原はそう言って少しも間違えないように、律儀に表現することと向き合っていた。フィギュアスケートは、最後は人間性が出るのだ。

―ひと皮むけましたか?

 その質問に、宮原は愛嬌を滲ませて答えた。

「突っついて、突っついて、ようやく今回、少し穴が開いたかなって」

 使う言葉のチョイスが愛らしく、リズムがよく、慎み深さも残していた。彼女のその繊細さが、ぬくもりのあるたおやかなスケーティングになるのかもしれない。それは、彼女の肖像の一つだ。

「フリーはフリーの世界観を出せたらいいなと思っています。練習でやっていることが出せるように。落ち着いて、自分らしい演技を」

 宮原は小さくお辞儀し、その場を後にした。

 2年ぶり5度目の全日本制覇に挑む。フリーの曲は「シンドラーのリスト」。曲に込められた情念が深いだけに、そこにつくり出される世界も濃密になるはずだ。

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