髙橋大輔のラストダンスが会場をひとつにする。「失敗を恐れず」 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 その理由を尋ねたことがあった。

「スケート、楽しいんで。(会場が)一つになるのが好きなんですよ。バラバラではなく、一つになるのが」

 髙橋は自らに問いかけ、言葉をかみしめるように答えた。

「(スケートに関しては)しんどいのが嫌じゃない」

 髙橋は言うが、その言動は常に相反する二つを含む。きついけど、楽しい。楽しいけど、きつい。その二つのバランスを絶妙に保ちながら、彼はそれを面白がっているのだ。

 その証拠に、彼が選んだショートプログラムの曲「The Phoenix」は、とことんアップビートだった。肉体への重圧は最大限。年齢を考えれば、無茶だった。

「アップテンポな曲は、やらなきゃと思っていて、ここでやらなかったら、一生やらないだろうなって。自分にとってこれしかないタイミングでした。想像以上に激しかったですが(笑)」

 髙橋はやはり幸せそうな顔で、あえて難しい戦いに挑んでいる。それは、生来的な競技者の証か。それとも、スケートへの巨大な愛か。

―全日本では、後輩たちに何を"つなぎ"ますか?

 テレビ局の記者の問いに、彼は真剣に悩みながら答えた。

「すでに自分は一度引退した身で、次に(つなぐことは)(そのとき)はやったので。今回は、それではなくて。今の自分が、どこまで食い込めるか。つなぐよりも、うーん、うまく言葉が出てこないんですけど......無謀な挑戦? まあ、33歳まで現役でいることを見せられただけでもいいのかなと」

 あけすけに語る髙橋は、完全に解き放たれていた。彼は好きなスケートで、自分のすべてを表現することに挑む。シングルスケーターとしての最後は、ひたすら明るく朗らかに――。その雄姿が、会場をひとつにするのだ。

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